恋の炎は、ときとして友情の灰を残す――、アンリ・ド・レニエの『だから』より
 

 時刻は、夜の十時をまわったころだったように思う。
  不意に、部屋の呼び鈴が鳴った。私は首を傾げる。はて、こんな時間に――?

 また警察かな、などと思ったりもした。

 そのころの私は二十代の半ばで、週刊誌の記者をしていた。配属は事件班だ。事件を担当すると、当然のように警察のご厄介になることも多く、疑惑の人物宅で張り込みをすれば、近所の住人に、不審な男がうろうろしていると通報されたり、“職質”を受けるなんてことは当たり前のようにあった。

 たまたま勘が冴えて、密輸、密売、その筋の方々の秘密の取り引き場所などを探り当てて現場に出向くと、それがGメンの極秘捜査の邪魔をして、すーっと寄って来たワゴン車に力ずくで押し込まれてこっぴどく怒られたり、最悪は“一味”と勘違いされて署まで連れて行かれたり。

 というふうに、事件を取材していると、警察関係者とお近づきになることが多い。

 あるときなどは、都内で起きた爆破未遂事件の犯人グループと間違えられて、家宅捜索を受けたこともある。どーして私が。灰皿の吸い殻をこっそり持って帰ろうとするし。捜査員が踏み込むときはたいがい朝早くか、夜遅くなので、称してこれを“夜討ち朝駆け”という。

 だから、あのときも、また警察かな――、と思った私です。

 玄関の扉越しに、どなた、と声をかける。返事はない。警察なら、いや~、夜分に恐れ入ります、と一応は慇懃に応えるのだが、それもない。こんな時間にNHKや新聞屋さんが集金に来るはずもない。店屋物の器なら玄関先に出しておけば、呼び鈴など鳴らさずに回収していく。はて、こんな時間に誰だろうと思いながら扉を開けると、青ざめた表情で親友のカノジョが立っていた。