このせいで、「目標管理は評価の仕組みなり」という誤解が発生します。

 目標管理にとっては、これだけでも迷惑なのに、このシステムを運用しはじめるといくつかの厄介な問題が発生し、それが目標管理に悪影響を及ぼします。

人事評価はモチベーションダウンの要素を抱えた仕組み

 ある中堅企業では、大手企業の事例や人事コンサルタントの助言にもとづいて、「目標管理による人事評価制度」という名の成果主義デジタル評価システムを作りました。

 運用マニュアルの1ページ目には、「従業員のヤル気を高め、業績向上を図るために、成果主義人事評価システムを導入する」と書かれています。

 私はそれを見たとき、この会社の人たちはこんなことを本気で信じているのだろうか、という疑問が頭をよぎりました。

 確かに、人事評価で高い評価を得た人は、嬉しさでヤル気を高めるでしょう。
 しかし、大多数は「普通」、もしくは低めの評価を割り当てられ、ヤル気をなくすか、「まあ、こんなもんか」とあきらめるのが一般的な傾向です。

 極端な言い方をすれば、人事評価はモチベーションダウンの要素も多分に抱えている仕組みなのです。

 それなのに、あたかも全従業員のヤル気を高めるがごとくの文言がマニュアルには踊っていて、なおかつ人事部の人たちはその実現をかたくなに信じているような雰囲気が漂っていたのです。

 大丈夫かなぁ、と思いましたが、案の定、3年ほど過ぎたころ、以下のような相談を受けました。


全員が目標設定シートには達成すべき目標をびっしりと書いている。

年に2回の上司と部下との個人面談も、ほぼ全員が30分以上の時間をかけて行っている。

だから、制度運用は文句なしのパーフェクトだと思われるが、その割には、社員は元気がなく、業績も低迷している。

我々の作った「目標管理による人事評価制度」のどこかがおかしいのではないか。