孫正義氏とダイレクトマーケティング

  かつて、ソフトバンクが「Yahoo! BB」というブロードバンドを広げようとしたとき、街中でYahoo! BBのADSLモデムを無料で配布しました。

  このとき、孫正義氏は経済誌の記者から、
「ADSLモデムを無料で配布するなんて、採算が合わないのではないか」
  と厳しく突っ込まれていましたが、孫さんは、
「いまの1顧客契約コストが2万5000円に達するまでは十分にペイします」
  と反論していました。
  つまり、「1顧客当たりの獲得コストが2万5000円に達するまで、永遠にこの手法を続けます」と言ったわけです。

  この言葉からもおわかりいただけると思いますが、当時のソフトバンクは、すでにダイレクトマーケティングを実践していたのです。

  逆に、マスマーケティングを主軸にしている企業のマーケティング担当者は、このような表現をすることはあまりありません。
「認知度がここまで上がりました」ということが、社内会議で共有される結果であり、そこから先へは行かないのです。

  でも、孫さんのように現場を知っている経営者は、ダイレクトマーケティングの重要性を、おそらく皮膚感覚でわかっているのだと思います。
  それは、自分が会社を立ち上げたときから、それこそ現場でチラシ配りをしながら泥臭く、ビジネスを続けてきた経験があるからです。

  このようにダイレクトマーケティングの手法を採り入れて、ビジネスを拡大させている企業としては、ソフトバンク以外に楽天、TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ、ベネッセコーポレーションなどがあげられます。

  ただ、このように大企業でありながら、マスマーケティングで認知度を上げると同時に、ダイレクトマーケティングで効果を測定しながら、きちんとクロージングまで持っていくというような高度なマーケティング手法を用いている企業は、ごく稀です。

  大半の大企業においては、インターネット普及後に、事業成長を担ってきた経験を持つ社員少ないため、ダイレクトマーケティングの言語が浸透していないのです。
  これからの時代を生き抜いていくのに必要な共通言語を持ち合わせていないのですから、新規事業が立ち上がることも少なく、若手社員は経験が積めないので、組織はどんどん硬直化していきます。