経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第8回】 2012年7月3日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【宮台真司氏×武田隆氏対談】(中編)
恋愛もフェイスブックも、“飛び越え”なければつまらない

インターネット上では、時間的、空間的、立場的な制約も飛び越えたコミュニケーションが可能なはず。しかし実際には、異なる価値観を持ったグループが混ざり合うようなコミュニケーションは起きづらい。なぜだろうか?
その原因は、インターネット空間の特性にあると社会学者 宮台真司氏は見る。「自分にとって『快』に相当するものだけを選べる空間」であるインターネット上では、かつての共同体で見られたような強制的なコミュニケーションが消え、かわって自分の快・不快を基準にした平板なコミュニケーションになっていくというのだ。
前回から続く宮台真司氏とエイベック研究所 武田隆氏の注目の対談。途中、意外な喩えで2人の対話はさらに盛り上がり……。

「気づき」によって、心の情報処理システムが変わる

武田:オンライン・グループインタビューの参加者に調査後のアンケートをとると、96%が「もう一度この調査に参加したい」と答えます。3週間かけて5000ワード以上も答えてもらうので、それなりの負荷がかかる調査なのにもかかわらず、ほとんど全員がまたやりたいと言っています。オランダ、インド、アメリカで行った調査でも同様でした。

宮台真司(みやだい・しんじ)
社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。1959年3月3日仙台市生まれ。京都市で育つ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。権力論、国家論、宗教論、性愛論、犯罪論、教育論、外交論、文化論などの分野で単著20冊、共著を含めると100冊の著書がある。最近の著作には『14歳からの社会学』『〈世界〉はそもそもデタラメである』などがある。キーワードは、全体性、ソーシャルデザイン、アーキテクチャ、根源的未規定性、など。

宮台:それは、おそらく「気づき」があるからだと思います。コミュニケーションを通じて、思考のフレームや価値観が変わるという経験は、貴重ですからね。

武田:私は以前、ひきこもりのコミュニティを観察することで、価値観が変わりました。私自身はひきこもりの経験がないので、最初は「甘えているだけなんじゃないか」と思っていたんです。

 でもある日、コミュニティのリーダーが「明日、このグループは解散します。僕は、病院に通おうと思う。外に出ます」と宣言した。すると、メンバーの中で「私もすぐには無理だけど、あなたの後を追って外に出たいです」という応援や、「裏切られた」という落胆がある。

 こういった発言をつぶさに見ていると、「本当に出ようと思っても出られないんだ」ということがわかります。私は自分の思考のフレームが間違っていたことに気づきました。

宮台:なるほど。しかし、それは武田さんにとって価値観変容のきっかけになったかもしれませんが、コミュニティ内のメンバーにとってはどうなんだろうという疑問があります。

 基本的に、均質なコミュニティの中にいるかぎり、人の心理システムは変わりません。人は自分の中に、簡単には変えられず、しかも自分では意識できないフレームを持ちます。スクリプトとかストーリーとか神経言語プログラムと呼ばれるものです。それを通してすべての物事を認識しています。

 たとえば、あるものが有害に見えたり、好ましく見えたりするのは、それが実際に有害か好ましいかは関係なく、そのように情報処理するフレームが、自分の中にあるからだということです。

 同じカテゴリの人間だけでコミュニケーションしているかぎり、そのフレームを上書きするフレームができあがる可能性は薄いです。ある種のノイズ撹乱要因が必要なのです。たとえば、突然に思いがけないことを発言する人が出てくると、認識のホメオスタシス(恒常性)が崩れますが、従来のフレームでは気づけなかったことに気づくチャンスになります。

武田:私がコミュニティの属性と異なる属性を持ち、コミュニティの外にいる人間だったから、異なる価値観に触れたことで変容が起きたということですね。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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