2017年に『借りたら返すな!』を出版し、財務状態や融資環境がいいときにできる限りの借入を行うことの重要性を説いた大久保圭太氏。一方、2019年に『社長! カネ回りをよくしたければ銀行の言いなりはやめなさい』を出版し、ムダな借金を減らして自己資本を強化することが会社を強くすると説いた古山喜章氏。
いずれも財務戦略のプロフェッショナルであるお二人の意見は、正反対のように見えます。借入はするべきかするべきではないのか、銀行との付き合いはどうすればいいのか、儲かる会社に変わるためにはどうすればいいのか……中小企業の財務戦略を軸に、お二人に激論をたたかわせていただきました。(取材・文/平行男、撮影/熊谷章)(前編はこちら)

金利も個人保証も、振込手数料も交渉できる!

「借りたら返すな!」「ムダな借金はするな!」<br />中小企業の財務戦略、どっちが正しい?<br />(後編)大久保圭太(おおくぼ・けいた)
Colorz国際税理士法人代表社員。税理士
早稲田大学卒業後、会計事務所を経て旧中央青山PwCコンサルティング(現みらいコンサルティング)に入社。中堅中小企業から上場企業まで幅広い企業に対する財務アドバイザリー・企業再生業務・M&A業務に従事。再生業務において、過去節税のために生命保険に加入した経営者が、業績悪化とともに借入等が返済できなくなり、保険金欲しさに自殺するのを間近にみて、自分の無力さに悩む。税理士の適切でないアドバイスにより会社の財務が毀損し、苦しんでいる経営者が多数いる現実を変えるには、税理士業界の意識を変える必要があることを痛感。2011年に独立し、再生案件にならないような堅実な財務コンサルティングを中心に、代表として年間数十社に及ぶプロジェクトを統括している。著書に、『財務諸表は三角でわかる 数字の読めない社長の定番質問に答えた財務の基本と実践』(ダイヤモンド社)がある。

大久保 銀行借入を想定して、銀行にどう見られるのかを意識したB/Sを作ることが大事ということは、私の本と古山さんの本で一致するところですね。

古山 そうですね。銀行にお金を借りるには、格付けの仕組み、金利の決まり方、担当者が望んでいることなど、銀行の手の内を知っておかないといけない。知っていれば手を打ちやすいはずです。

 既存債務の金利だって交渉できます。たとえば10億円くらい借りている会社で、借入金利が2%から1%に下がったら、返済額が年間1000万円くらい減ることもあります。それを経営者は知らないんです。

大久保 いまだに3%以上の金利で借りている会社もあって、ビックリします。

古山 結構ありますよ。古い付き合いがある銀行と1行取引しているケースでは、金利が高いままになっています。銀行側からすればいいお客さんですよ。交渉すれば振込手数料だって下がります。

大久保 銀行によっては1回の振込手数料が756円もするところがあります。でも交渉の結果、216円とかになれば、年間ベースでは大きなコスト削減です。

古山 仕入先とは厳しい交渉をするのに、銀行相手だと交渉できないと思い込んでいる経営者は多いですよね。でも交渉次第で金利は下がるし、個人保証も外すことができます。

大久保 2013年に金融庁が「経営者保証に関するガイドライン」で、経営者に個人保証を求めない、既存の保証債務も見直すようにとの指針を打ち出しました。会社の事業性を評価した融資審査をしなければならないから、個人保証はもう必要ないはずなんですよね。ただ、実際に事業性評価をしている銀行はほとんどない気がします。

古山 結局、銀行にB/Sを読める人が少ないからだと思います。ある銀行の元頭取は、「銀行員でB/Sをちゃんと読める人の割合は2割ぐらい。ちょっとだけ読めるが6割。全く読めないが2割」と言っていました。

 B/Sが読めないから、会社から決算書を受け取って審査部に回すだけ。決算書を見て判断する能力が今の銀行員にはないし、教える仕組みもないんです。

大久保 AI(人工知能)が普及すれば、融資担当なんて全くいなくなるんじゃないでしょうか。銀行にとっては大変な時代だなと思います。お金を貸したくても貸す先がない。優秀な専門会社があるから、M&A案件にも関われない。投資信託や生命保険などの金融商品を売るしかない。これからどうやって儲けていくのか、外から見ていても不安になりますよ。

古山 淘汰されていくでしょうね。地銀なんて明らかに数が多すぎますから。