「自分の言いたいことを伝える力」だけでは
今求められるビジネス英語のスキルとして不十分

 多くの日本人は、自分が話したいことを頭の中で整理した上で、それをできうる限り適切な英語で表現しようと思うあまり、すぐには言葉が出てこないのかもしれない。しかし、そこまで肩に力を入れる必要はないと田中教授は助言する。

 「意味がよくわからなかったり、文法的に間違ったりしていても、『それはこういうことを言いたいのでは?』などと相手が言葉を返して助け舟を出してくれるものです」

 OHP時代のビジネス英語においては、「言いたいことを理路整然と述べる」ことや、「正しい情報を相手に伝える」ことが最重要課題と位置付けられがちだった。例えてみれば、慎重に振りかぶって相手の胸元に的確なコントロールでボールを放り、相手はそれを体の正面で受け止めた上で、同じく慎重に投げ返すというキャッチボールである。

 もちろん、今の時代も言葉のキャッチボールはコミュニケーションに欠かせない。しかしながら、最近のビジネス英語で最も求められているのは、相手との頻繁な対話を通じてお互いが共通認識を有し、最終的に「何かを作り上げる(意思決定を行う)」ことなのだ。

一つの塑像をみんなで造るように
会議参加者で一つの「意思」を完成させる

 「淡々とキャッチボールが繰り返されていただけだった、かつてとは違い、今の時代におけるビジネス英語のコミュニケーションは参加者が共同で一つの『塑像』を造っていくようなアクション。それぞれが眼前の粘土に手を入れて(意見を述べ合って)、その作業の繰り返しで形が次第に修整され、一つの塑像(意思決定)が完成していくわけです」(田中教授) 

 したがって、塑像を完成させるためには文法や発音以上に、ちょっとしたリアクションのスキルや相手の背景などを機敏に察する洞察力などが重要となってくる。また、日本人の会話では常套句の「話は変わりますが……」もグローバルには通用しない。何の関連性もない話題が唐突に挿入されることは理解され難いし、そもそも結論を後回しにしがちな日本人の論理展開はなかなか受け入れられない。