ベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』が話題の山口周氏。山口氏が「アート」「美意識」に続く、新時代を生き抜くキーコンセプトをまとめたのが、『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』だ。
グローバル市場では、GAFAに代表されるメガプレイヤーによる寡占化が進んでいる。ここでは一部の企業による勝者総取りが発生し、ほとんどの企業は熾烈な価格競争に陥り、生き残ることができない。では、その「ほとんどが負ける」最終戦争=ハルマゲドンを、日本企業はどう生き抜けばいいのか?
切り替わった時代をしなやかに生き抜くために、「オールドタイプ」から「ニュータイプ」の思考・行動様式へのシフトを説く同書から、一部抜粋して特別公開する。

【山口周】アップルはいかに「文学」になったのか

【オールドタイプ】「役に立つ」で差別化する
【ニュータイプ】「意味がある」で差別化する

「勝者総取り」か「市場の多様化」か
2つのトレンドの裏にあることとは?

すぐ役に立つものは、すぐ役に立たなくなる。
――小泉信三(*1)

 この先、ビジネスにおける市場は、メガプレイヤーによる「寡占化」が進むのでしょうか。それとも、ニッチプレイヤーの登場によって「多様化」するのでしょうか。

 前回指摘した「グローバル×ニッチ」という新しいポジショニングが登場すれば、必然的な結果として、市場の分散化・多様化が進行することになります。しかし、このような予測については次のような反論があるかもしれません。

 すなわち「GAFAに代表されるグローバルプレイヤーが市場を一色に塗りつぶしつつあり、グローバル化によってむしろ市場の多様性は減殺されているのではないか」という反論です。

 確かに、GAFAに代表されるグローバルプレイヤーの存在感は近年、すさまじいことになっているので、そのように考えたとしても仕方がありません。しかし、目立つ現象だけに目を奪われてしまうと、その背後で起きている大きな構造変化を見逃してしまうことになるので注意が必要です。

 結論から言えば、筆者が指摘した「グローバルニッチプレイヤーによる市場の多様化」「GAFAに代表されるグローバルメガプレイヤーによる市場の寡占化」という2つのトレンドは、まったく矛盾していません。なぜなら、現在のグローバル市場で進行しているのは、この2つのトレンドによる二極化だからです。

 勝者総取り市場が表立って議論されるようになったのは1990年代のことでした。経済学者のロバート・フランクとフィリップ・クックは、1995年に出版された著書『ウィナー・テイク・オール』の中で、世界中で勝者総取り市場への転換が進んでいることを指摘し、警鐘を鳴らしています(*2)。

 興味深いのは、著者が同書において指摘している「勝者総取り化が進行する原因」です。フランクとクックは、その理由として「絶対評価」から「相対評価」への変化を挙げています。どういうことでしょうか?

 左官職人を例にとって考えてみましょう。1日に100個のレンガを積める職人と、90個のレンガを積める職人がいる場合、市場が健全に機能していれば前者が100の報酬をもらうとき、後者は90の報酬を得ることになります。これが「絶対評価」の市場です。

 対照例として、検索エンジンの開発者を考えてみましょう。一番優れた検索エンジンを開発した人物と2番目に優れた検索エンジンを開発した人とを比較してみたとき、たとえば前者の検索エンジンのパフォーマンスを100として、後者が90だというとき、報酬がその比率になることはありません。

 市場で生き残ることができるのは最も優れた検索エンジンだけであり、2番手以下はまったく報酬を得られず、市場から敗退することになります。これが「相対評価」の市場です。

 つまり、フランクとクックは、市場が「絶対評価」から「相対評価」へと変化することで、勝者総取りが進行すると考えたわけです。

(注)
*1 小泉信三(1888年5月4日~1966年5月11日)。日本の経済学者。東宮御教育常時参与として皇太子明仁親王(現上皇)の教育の責任者を務める。1933年~1946年まで慶應義塾塾長(第7代)。
*2 ロバート・H・フランク、フィリップ・クック『ウィナー・テイク・オール――「ひとり勝ち」社会の到来』1998年、日本経済新聞社