摘発を逃れる秘策は「配偶者」の下着と結婚写真

 1件の偽装結婚を成約させた結果、3~4年のうちに600万円の金がプロモーターのもとで動くという。しかし、驚くのは「国家をだまして得る不正利得」の金額と比して、課せられる罪が軽いことだ。

 日本には「偽装結婚罪」という罪はない。摘発するとすれば、法的な根拠は「公正証書原本不実記載」である。

「まあ、文書偽造したってことだけど、人を殺めたわけでもない。まず実刑はないし、どんなに重くても普通は1年以下の懲役ですむ」(プロモーター)

 もちろん、組織的な違法労働管理や暴力行為の実態が表面化すれば、その罪は重い。しかし、当局の捜査がほかの犯罪に比べて「緩くならざるをえない」事情がそれを妨げる。

 通常、偽装結婚の捜査を担当するのは法務省入国管理局、いわゆる「入管」であるが、普段から大々的な捜査が行なわれているわけではなく、目星をつけたところにランダムに電話や訪問調査を実施する程度と言われる。もし捜査の対象になったとしても、「配偶者」の下着や一緒に撮った写真、結婚に関する書類があれば、それ以上は立ち入ってこない。

 これは何も入管の捜査が弱腰だというわけではない。これがどうしても「微妙な問題」になってしまうからだ。

 仮に、本当に国際結婚をしている家に立ち入り、家族のプライベートな物品を無理に提示させて「本当は結婚なんてしてないんじゃないのか?」などと追及した際には、それこそ人権問題、国際問題へと発展しかねない。

 こうした問題の微妙さをついて生き長らえているのが、この「偽装結婚ビザ」だ。

敏腕プロモーターに蓄積された盤石のノウハウ

 あるプロモーターは、新規の結婚を成立させるために、毎月数名の日本人を連れてマニラを訪れる生活を10年近く続けているという。金を欲しがっていそうな日本人を集められる腕さえあればこの商売ができるかというと、それほど簡単な話ではない。

 日本人の「新郎」とは、数年にわたって常に連絡を取り続けられる状態でなければならない。「報酬」を欲する危ういモチベーション(それはしばしば経済的貧しさであるわけだが)を維持していながら、かつ信頼に足る人物を見極めなければならないのだ。

 そして何より重要なのは、フィリピンでの「仕入れの力」を決定付けるコネ。ちゃんと手付金を用意し、日本に来てもまじめに、従順に働くことが見込める“条件のいい”女がいないか、馴染みある夜のマニラの店を歩きながら常にあたる。

 日本に連れてきた女には、職場斡旋はもちろんのこと、住居、送迎から生活の全ての面倒をみる。それは場合によって給料の管理までも含み、最低限の生活費を本人に渡し、斡旋時に話がついていた金額をフィリピンに送金し、残った分は手数料としてすべて懐に入れる。

 もちろん、長年の「ノウハウ」の蓄積からあらゆる事態を想定しており、摘発への対策も十分だ。