一口にITシステムのクラウド化といっても、現状のソリューションは、ストレージとアプリケーション(サーバー)についてのもので、実はそれらを物理的につなげているネットワーク専用機器のクラウド化は、いまだ未開拓の領域といえる。ネットワーク仮想化というこの分野での基盤技術の開発に、世界的にも最先端で取り組んでいる日本のベンチャー企業がある。アマゾンやグーグル出身のエンジニアが集まる多国籍チーム、ミドクラを率いる同社共同創設者兼CEOの加藤隆哉氏に話しを聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)

――グーグルの本社に知人がいますが、彼は自分のコンピュータが盗まれても何の影響もない。アプリケーションもデータも何もそこには入っていないから、と言っていました。いまや、一般の人でもさほど変わらないサービスを受けられるようになっており、クラウドはずいぶんと身近になってきました。

「もう一度日本を技術立国にする」――未踏の領域、ネットワークのクラウド化へひた走るベンチャー企業、ミドクラの加藤隆哉氏に聞くかとう・たつや/株式会社ミドクラ共同創設者兼CEO。1965年神戸市生まれ。京都大学工学部航空工学科卒業。株式会社コーポレートディレクションに入社。テレコミュニケーション/ソフトウェア/コンピュータ/メディア業界における新規事業開発支援、全社経営監査、中長期戦略立案など多種多様なプロジェクトに従事。その後、大学の先輩と共に株式会社グロービスを設立。グループCOOとしてベンチャー経営に携わる。2004年に株式会社サイバード代表取締役社長に就任。06年に株式会社CSKホールディングス執行役員就任。グループ子会社株式会社CSK-ISの代表取締役副社長として様々なIT分野における新規プロジェクトを推進。インターネット関連子会社の株式会社ISAO代表取締役社長も兼任。10年1月に株式会社ミドクラを設立、現在に至る。
財団法人日本取締役協会正会員・理事「エマージング・カンパニー委員会」副委員長、経済産業省「グローバルなソフトウェア産業競争力に関する研究会」諮問委員を歴任。株式会社ロイヤルゲート顧問、シフト株式会社顧問、モバドジャパン株式会社顧問、株式会社ブークス非常勤取締役を務めている。

 今みなさんがよく使われているクラウドとは、例えばGmailのようなクラウド・アプリケーションですね。これらは、日本では2005年には一般的に使われるようになっています。

 企業システムとして、クラウドが注目された最初は、2007年に日本郵政公社が米IT大手のセールスフォース・ドットコムのSaaS型営業管理アプリケーションを全面導入した際です。あれはエポック・メイキングでした。

 自前にインフラを持たず、なおかつ自前にアプリケーションも持たず、あれほどの大きな会社が導入したことで、他の企業もクラウドの方向に動き始めました。ITの所有から利用への動きはずっと言われていましたが、このときに流れが大きく変わり、ITも電気やガスのように、インフラを所有しないでサービスを利用するものになりました。

 もう一つエポック・メイキングだったのは、2010年末にアマゾン・ドットコムのAWS(Amazon Web Services)が日本に本格的に上陸したことです。AWSは、企業システムをクラウド化するためのインフラを提供するサービスです。いわば、計算する機能とデータを蓄積する機能が、10秒もあれば手に入る環境になりました。以前ならば、機器のベンダーから見積もりをとり、インフラを構築・設定するのに2ヵ月かかったものが、今は秒単位でできるようになったわけです。