「初飛行」という新市場を創出した
ピーチ・アビエーション

「いやぁ、飛行機って揺れるものなんですね」

 6月某日、ピーチ・アビエーション機内で記者の隣の席に乗り合わせた芦田浩平さん(仮名)は、そう言って手のひらの汗をぬぐった。今年で40歳だが、この日、人生で初めて飛行機に乗ったという。芦田さんは大阪出身でそのまま地元に就職。遠方に親戚がいるでもなく、これまで特に飛行機に乗る必要性はなかった。

 しかし今年3月、関西国際空港にピーチが就航すると、「どんなものか乗ってみよう」と友人に誘われた。「4000円で福岡に行ける」というのが決め手だった。友人が手配してくれた航空券の価格は、行き3780円、帰り4780円。4000円で福岡に行けるというのは本当だった。

 国内初のLCC(格安航空会社)として日本の空を飛んだピーチ。その登場は、これまで日本の空にはなかった低価格運賃をもたらした。

 これまでは、飛行機で大阪から福岡に行こうとすると、全日本空輸(ANA)などの大手航空会社(レガシーキャリア)の運賃では2万1900円、早期割引予約でも1万3000円かかっていた。新幹線でも1万4890円かかる。これが、大手の割引運賃の実に3分の1で行けるようになったのである。

 この衝撃的な低価格は、新たな需要を創出している。

 ピーチの株主でもあるANAから転籍した井上慎一・ピーチ社長は3ヵ月間の運航を経験して、「初めて飛行機に乗ったというお客さまが多い」と打ち明ける。調査によると、搭乗者の2~4割が人生初フライトという人たちだ。

 客室乗務員も日々の業務の中でそれを実感している。

 大きな手荷物を、前の座席の下にぎゅうぎゅうに詰め込んでいる乗客に上の荷物入れを案内すると、「なんだそこにあったのか」と返事がくる。シートベルトの締め方を知らない人も結構いる。