多くの書店でベストセラーのランキング入りしている『媚びない人生』のジョン・キム氏。韓国に生まれて日本、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等3大陸5ヵ国を渡り歩き、使う言葉も専門性も変えていった著者が今回著したのは、ゼミの最終講義で卒業生に送ってきた言葉をベースにした人生論だった。今回は、レバレッジシリーズなどで著書累計200万部を突破、『LESS IS MORE 自由に生きるために、幸せについて考えてみた。』も話題の本田直之氏との対談の後編をお届けします。今、2人が若者に伝えたいメッセージとは。
(取材・構成/上阪徹 撮影/小原孝博)

新しい幸福の姿に、若者たちは気づいている

大人たちが目指してきた幸福の形では、<br />もう幸福になれないと若者たちは気づいている<br />【本田直之×ジョン・キム】(後編)
ジョン・キム(John Kim)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任准教授。韓国生まれ。日本に国費留学。米インディアナ大学博士課程単位取得退学。中央大学博士号取得(総合政策博士)。2004年より、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構助教授、2009年より現職。英オックスフォード大学客員上席研究員、ドイツ連邦防衛大学研究員(ポスドク)、ハーバード大学法科大学院visiting scholar等を歴任。アジア、アメリカ、ヨーロッパ等、3大陸5ヵ国を渡り歩いた経験から生まれた独自の哲学と生き方論が支持を集める。本書は、著者が家族同様に大切な存在と考えるゼミ生の卒業へのはなむけとして毎年語っている、キムゼミ最終講義『贈る言葉』が原点となっている。この『贈る言葉』とは、将来に対する漠然とした不安を抱くゼミ生達が、今この瞬間から内面的な革命を起こし、人生を支える真の自由を手に入れるための考え方や行動指針を提示したものである。

キム 新著『LESS IS MORE』では、幸福度ランキングの高い北欧の人々に話を聞きに行かれたそうですね。

本田 世界の国々の幸福度ランキングでは、日本は80位とか、いつもびっくりするくらいのランキングの低さです。実際、ハワイに住んで改めて思うようになったことなんですが、シンプルな暮らしをしているけれど、みんながとても幸せそうにしているんですね。

 ところが、国民負担率も北欧ほど高くないし、モノも豊富で豊かなはずの日本人が、どうして幸せを感じられないのか。大量生産、大量消費、ハードワークでブランド物を、みたいな物質至上主義では、もう幸福感につながらなくなっているんじゃないかと思うんです。

大人たちが目指してきた幸福の形では、<br />もう幸福になれないと若者たちは気づいている<br />【本田直之×ジョン・キム】(後編)
本田 直之(ほんだ・なおゆき)
レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役社長兼CEO シティバンクなどの外資系企業を経て、バックスグループの経営に参画し、常務取締役としてJASDAQへの上場に導く。現在は、日米のベンチャー企業への投資事業を行うと同時に、少ない労力で多くの成果をあげるためのレバレッジマネジメントのアドバイスを行う。東京、ハワイに拠点を構え、年の半分をハワイで生活するデュアルライフを送っている。著書に、ベストセラーになったレバレッジシリーズをはじめ、『ノマドライフ』(朝日新聞出版)、25万部を超えるベストセラーとなった『面倒くさがりやのあなたがうまくいく55の法則』『ゆるい生き方』『7つの制約にしばられない生き方』(以上、大和書房)『ハワイが教えてくれたこと。』(イースト・プレス)などがある。著書は累計200万部を突破し、韓国、台湾、中国で翻訳版も発売されている。

 昔は違いました。モノがなかったから。冷蔵庫が来ました、テレビが来ました、エアコンが来ました、とプラスされていく喜びがあった。でも、今はほとんどすでに持っているわけですよね。これ以上プラスするものはないのに、広告やマーケティングで「もっと買え、もっと買え」「こんなのもいいよ」と言ってくる。それを受け入れても、昔のような喜びはまったくないのに、です。

むしろこれからは、付け加えたり飾り立てたりするよりも、減らしたり、シンプルにすることのほうが大切だと思ったんです。それを実践しているのが、北欧の人たちです。『LESS IS MORE』とは、「より少ないことは、より豊かなことだ」という意味です。これこそ、これからの世の中に求められてくることだと思うんです。

キム 実はそこにすでに、若い人は気づいていますよね。クルマ離れに象徴される物質至上主義からの脱却を、すでに図っている。大人たちから見れば、若者は幸福を追求していないんじゃないか、もっと大きな物質的な目標を持つべきだ、なんて思えるようですが、そもそも若い人が目指している幸福というものと、大人たちが考える幸福とはズレてきてしまっているんです。

 若い人たちは、大人たちよりはるかに北欧の人たちに通じるところがあるのかもしれませんね。モノに対する消費欲求が減じているのもそうだし、自分に何が必要なのかを厳選した上でモノを消費している。その一方で、意味や精神性、自分なりの価値といった見えないものに対する欲求が大きくなっている。右脳的で感性的な欲求、感情的な欲求、ライフスタイルやデザイン、ストーリーテリングやアイデンティティ。そういうものへの欲求が高い。

 そんなふうに若者は幸福は追求をしているけれど、社会は過去の価値観から評価をする。だから、若者は自分の幸福レベルを下げているんじゃないか、なんて声が出る。本田さんがおっしゃる通り、すでに一元的な幸福感を持てる時代は過ぎ去っていて、若者たちは次の成熟した後期資本主義ともいえるものに突入している気がします