斬新な企画は、他社研究をしても生まれない

 ゼロから考えるということは、効率の悪い作業です。
ライバルがこんな策を練っているということを事前に知っていたら、その策をベースにしつつ、劣っている部分を手直しして、よりよい案をつくることも可能です。もしくは、スタートの時点でライバルの策とはまったく違うものを考え始めることもできます。

 でも、私は頑なまでに、ゼロから始めることにこだわります。
  そして、何かアイデアが思い浮かぶとすぐに、「この案、どう思う?」と、スタッフや友人に尋ねてみます。
  「高倉さん、それと同じようなこと、この間X社がやってましたよ」
と、あえなく却下されることもしばしば。
  「じゃあ、この案は?」「それもダメならこっちは?」などと、次々に案を出しては叩かれることの繰り返しです。

 考えてみれば、他社も優秀な人たちが一生懸命いい案を生み出そうと頭をひねっているわけですから、ライバルを凌ぐすごい企画というのは、そうそう出てくるものではありません。ですから、ゼロから無心に考えても、他社と同じような案になってしまうことは珍しくないのです。

 けれども、時として、誰も思いつかなかったような「目らウロコ」的なアイデアが生まれる可能性があります。それは、自由な発想の足かせとなる過去の成功例をベースにしていたら、決して生まれないことなのです。 

ゼロから始めるほうが、より本質に近づける

 ゼロから考えた結果、たとえライバルと似たような企画になってしまったとしても、ほんの少しの違いが大事になってくることがあります。その僅かな違いが、自社のブランドらしさを表すことになるのです。

 たとえば、化粧品ブランドがキャンペーンでポーチを作ろうということになった場合。
  「どんなポーチをつくるのか?」という課題に対して、「AブランドやBブランドを参考にして、よりいい物を作ろう」という改善策と、「うちのブランドなら、こういう色でこういう形がいいよね」とゼロから考える方法とでは、完成品があまり差のないデザインになったとしても、発するオーラは全然違います。

 なぜなら、後者のほうが、より自社のブランドらしさという本質に迫るアプローチだから。改善策で出た案より、魅力があるのは当然なのです。
  このように、ゼロから始めることは、パッと見には時間もかかって遠回りなように感じられるかもしれませんが、独自性を出すためには不可欠な道なのです。
  そのためにはまず、「ライバルの庭は覗かない」ことを、肝に銘じてください。

「日本撤退寸前」を、売上3倍にした方法

 では、「ライバルは見ない」ことで、成功した事例を1つご紹介します。

 今でこそ、セレブも愛用する憧れのウォッチブランドの1つとして日本でも人気があるスイスの高級時計ブランド、ウブロですが、私がウブロジャパンの代表取締役に就任した2005年当時は、まったくといっていいほど日本での知名度はありませんでした。
  それどころか、売上が長らく低迷していたため、日本法人の閉鎖を迫られているような状態だったのです。

 私の当面のミッションは、短期間でウブロの売上と知名度をアップさせ、ウブロジャパンの存続を可能にすることでした。

  まずは、販売店まわりから始めてみよう。当時、ウブロを扱っている小売店は、全国に約50店舗ありました。それらを1軒1軒、気持ちを新たに説明行脚です。

 予想はしていましたが、どの店でもウブロはほとんど売れておらず、ショーケースには古いモデルが埃をかぶったまま並んでいました。意気揚々とセールストークをしても、多くの店のオーナーや店長たちは鈍い反応です。

 「うーん、うちは今まで、つきあいでウブロを置いてきたけど何せ売れてなくて、こんなに在庫がかさんじゃってるから。悪いけど、在庫を引きとってもらえない限り、新作は買えないね」

 「確かにビッグバンのデザインは面白いけど、日本人には奇抜すぎるし、サイズも大きすぎるんじゃない?」

 こんな調子で、取りつく島がありません。
  日本法人の存続も危うい状態ですから、販促費もほとんど期待できません。
  「こりゃあ、普通のやり方では、売上アップなんて絶対に無理だな」と、すぐに危険信号を感じました。