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7月3日 18時0分
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日本株式市場展望(2012年7月) - 広木隆「ストラテジーレポート」

今週号の日経ヴェリタスは「下期の為替・株式相場 プロの見方を聞く」という特集を組んだ。筆者も取材に答えたので、そこに筆者の相場観も掲載されている。日経ヴェリタスで下期の相場観を述べて、いわば「ホーム」であるこのストラテジー・レポートで語らないのは本末転倒。ということで、間髪を入れずに、ここでも下期の相場見通しを述べたい。但し、ヴェリタスのほうは先方の依頼に応える格好で「下期(7-12月)見通し」として半年の相場観を述べた(日経平均の推移予想イメージまで図示した)が、そんなに先のことまでは分からない。もっとも明日のことさえ分からないのだが、そんなことを言っても仕方ないので、この「市場展望」レポートでは、いつものように向こう2〜3カ月を見通して、ということにしたい。

結論からいうと、ここからしばらくは戻りを試す局面が続くと見ている。先日のレポートでも、そう述べたが先週末に欧州首脳が金融安全網から民間銀行に資本を直接注入できる仕組みで合意したことで、さらにその確度が高まったと考える。関東地方はやっと梅雨の後半戦に入ったところだが、日本株相場は今後夏場にかけて「サマーラリー」となるだろう。主要なポイントは以下の4点である。

(1)欧州債務懸念の後退
(2)米国など主要国の景気動向
(3)世界的な金融緩和
(4)日本企業の業績とそれに大きな影響を与える為替動向

「『サマーラリー』となるだろう」と述べたが、これは予想であるから外れることもある。外れた場合は、この4つのポイントにおける筆者の解釈・読みが間違っていたということになるだろう。読者諸氏におかれてはご自身の投資判断にこのレポートを参考になさる場合、ここに挙げた4つの点について、どの程度確信が持てるか、ご自信で判断願いたい。順を追ってみていくことにしよう。

(1) 欧州債務懸念の後退

EU首脳会議の主な合意内容は、① 1200億ユーロの成長協定、② ECB主導による銀行監督の一元化、③ ESMによる銀行への資本直接注入④ スペインの銀行セクター支援には優先弁済権を付帯しない、⑤ ESMが市場安定化のために南欧の国債買い入れを柔軟に対応、というものである。これに対して、(まったく予想されたことではあるが)早くも「いちゃもん」がつけられ始めた。いわく、実際に遂行するには前途多難、詳細はまだ不透明、欧州共同債への言及がなかった、等々である。(これもまた、まったく予想されたことではあるが)一番多く目にしたコメントは、「南欧諸国の財政状態の悪さは変わらない」というものだ。それはそうだろう。繰り返し述べている通り、国家の財政状態など一朝一夕に変わるものではない。財政健全化には緊縮策と成長戦略をバランスよく実施したうえで時間をかけながら臨むしかない。それまでの間、鍵となるのは、性急な市場からの攻撃をいかに防ぐか、どうやって「時間を稼ぐか」である。それには市場に「取り組んでいる姿勢」をアピールすることだろう。

欧州問題は喩えるなら、図のような3重構造をもっていて、一番下のファンダメンタルズはゆっくりとしか変化しない。だから、市場はその将来像を政府の政策対応を見て判断するわけだ。ところが、狡猾な市場はダブルスタンダード(二重基準)。いつもは欧州各国の協調姿勢の乱れなどを攻撃の対象として突くが、それが片付いてしまうと、(根本的な問題はそう易々と変わらないと分かっていながら)今度は「ファンダメンタルズの悪さ」を槍玉にする。その辺りが、このゲームの茶番的なところである。



市場が一番恐れる最悪シナリオは「リーマン危機の再来」のようなパターン、つまり「突然死」のような想定していなかったリスクシナリオが示現することだ。その意味では、ギリシャの無秩序なユーロ圏離脱も、スペイン発の金融危機も目先は回避された。欧州問題の最悪期は過ぎたと言ってよいだろう。無論、市場に動揺の余波は残る。何度も蒸し返されてきただけに強気一辺倒になりきれないのも無理はない。しかし、何が起こるか分からない、といった漠然とした不安感、危機感を煽るような市場の崩れ方は(少なくとも当分は)もうないだろうと考える。金融安全網は整備され、それの使い方でも欧州首脳は合意した。年末までに作成すると宣言した工程表に沿って進捗が図られていることを確認できれば、欧州危機は徐々に沈静化していくだろう。



(2) 米国など主要国の景気動向

むしろ市場の関心は主要国の景気回復に移行するだろう。当社フィナンシャル・インテリジェンス部の戸澤は「欧州・中国の景気低迷が続くなか、これまで世界経済の下支え役であった米経済にも懸念材料が散見され始めている」と指摘、特に、景気動向を反映しやすい製造業景況感の動向には注意が必要だと述べた(7月2日レポート)。果たして、昨日発表された6月のISM製造業景況指数の結果が市場予想を大幅に超えて悪化し、景況判断の分かれ目となる50を下回る3年ぶりの低水準となった。



確かに米国の経済指標には減速感が目立ってきている。上で挙げた企業の景況感や消費者のセンチメントも低下、消費も振るわない。そのなかで今週末には雇用統計の発表が控えている。先月の雇用統計が下振れし、失望したマーケットが暴落となったことは記憶に新しいところだろう。ダウ平均は274ドル安を記録、それを受けた翌週月曜日の東京市場ではTOPIXがバブル崩壊後の安値を更新する28年半ぶりの水準に沈んだ。市場で警戒感が高まるのも無理はない。

但し、これがすぐに米国の景気後退を示唆するものと捉えるのは早計である。せいぜい景気減速の範囲で、そうした減速はこれまで何度も経験してきた。さらに言えば、この時期に雇用や景況感が落ち込むのは2年連続のこと。そして2年連続で秋口からまた堅調さを取り戻してきた。今年は大統領選がある年であることに加え、もうひとつ年後半からの回復基調の強まりに期待できる要因がある。それは米国の住宅市場に底入れの兆しが見えるからだ。

リーマン危機以降、米国景気は回復してきたが、その基調は脆弱なものだった。それは雇用と住宅が米国景気のアキレス腱となってきたからだ。その弱かった住宅市場にやっと光明が見え出した。直近の指標では、住宅建築業者の景況感を示すNAHB住宅市場指数が市場予想を上回る29ポイントと2007年5月以来の水準となったほか、住宅建設許可件数は市場予想を上回る急増となり2008年9月以来の水準を回復した。また、新築一戸建て住宅販売件数は前月比7.6%増加の36万9,000件(年換算)と、2年余ぶりの高水準となった。一方、中古住宅販売はほぼ市場の予想の範囲内だったが、中古住宅販売仮契約は、市場予想の+1.5%を大幅に上回る+5.9%と前月のマイナス5.5%から大きく改善した。全米不動産協会が集計している中古住宅販売仮契約は、仮契約が本契約に移行するまでには通常4〜6週間程度かかることから、中古住宅市場の先行指標とされている。米国の住宅市場は新築より中古市場が圧倒的に大きく、次回の中住宅販売指標の改善が期待される。



住宅価格のほうも下げ止まってきた。4月のS&P/ケース・シラー住宅価格指数(主要20都市)は、季節調整済で前月比+0.7%と3カ月連続して上昇した。前年比では1.9%低下で、前月の2.6%低下から改善傾向にある。

こうした背景には、政府が住宅ローンの借り換え促進策を強化したことに加え、歴史的な低水準にある長期金利に連動して住宅ローン金利もまた歴史的な低水準にあることが挙げられる。住宅価格の十分な調整と相俟って、住宅の購入し易さを示す住宅取得能力指数も記録的な高水準にある。昨日発表された建設支出は前月の改定値から0.9%増加した。市場予測の平均(0.2%増)を上回り、2カ月連続の増加。前年同月比では7.0%増となった。特に住宅建築が全体を引き上げ、一戸建ては同1.8%増、集合住宅は同6.3%増加した。

住宅市況の底入れムードを背景に、住宅関連各社の業績も好調だ。住宅建設大手のレナーが先月27日発表した3〜5月期決算は、純利益が4億5200万ドルで前年同期の1300万ドルから大幅な増益だった。売上高も9億3000万ドルで前年同期比22%増となった。新規受注戸数が改善、前年同期比40%増の4481戸となった。レナーの株価は年初から約6割(!)上昇して、この間のS&P500を50%アウトパフォームしている。



これだけ住宅市場の改善を示すデータが揃い、その背景(=低金利)も明確ならば、住宅市況は底を入れつつあると判断して良いだろう。産業としての裾野が広く景気への波及効果が大きい住宅市場の底が見えてきたことは、米国景気の下支え役として期待できる要因である。



(3) 世界的な金融緩和

話をISM製造業景況指数に戻そう。ISM製造業景況指数は、言うまでもなく、雇用統計と並んで米国の景気指標のなかでも最重要のもののひとつである。昨年まで2年連続して春から夏にかけて米国景気の減速感が強まったときも強気でいられたのは、ISM製造業景況指数が景況判断の分かれ目となる50を下回ることなく推移していたからだ。だから、今回の結果が49.7となり、2009年7月以来初めて50を割ったことはショックだった。内容を見ると、特に新規受注の落ち込みは激しく、下げ幅は米同時テロ直後の01年10月以来の大きさになったことは深刻に受け止めるべきだろう。

ところが、である。米国株式市場にとってはそれほどの衝撃ではなかったようだ。ダウ平均は一時84ドル安まで売られたものの、その後は下げ渋り、取引終盤にかけてじりじりと下げ幅を縮小、結局8ドル安まで戻して引けた。S&P500は取引終盤には上昇に転じ、この日のほぼ高値圏で引けた。ナスダック総合指数に至っては先週末の終値を挟んで一進一退の展開を続けたあと、終盤に強含み高値引けとなった。

素直な解釈は、FRBが追加緩和に踏み切る期待が相場を支えたということだろう。

欧州でも、ユーロ圏の5月の失業率が比較可能な1995年以降で最悪を更新するなど景気の悪化に拍車がかかるなか、5日のECB理事会では利下げ等の金融緩和策が打ち出されるとの観測も高まっている。また同日には英国でもイングランド銀行(英中央銀行、BOE)による金融政策委員会が予定されており、英国も量的緩和を実施するとの見方も台頭している。

こうしたなか日本でも来週に日銀の金融政策決定会合が開かれる。当初は、ここで追加緩和が決定されるとの見方が市場では優勢だったが、先般発表された日銀短観が予想以上の改善を示したことから、日銀の緩和観測がやや後退、為替市場の円高につながっている。しかし、短観で業況判断が改善したと言っても景気回復のペースは鈍く、日銀は1%の物価上昇の目途を掲げている以上、金融緩和バイアスは継続との見方から次の決定会合で追加緩和を決定するとの観測も市場の一部に残っている。

欧州の金融緩和は、この7月のタイミングでかなり濃厚だが、日米については不透明である。しかし、7月単月にこだわらず、もう少し先まで考えれば世界的な金融緩和モードはより鮮明になるはずだ。

毎月、マネックス証券では「チャット駆け込み寺」という視聴者からの質問にチャット形式でお答えするオンラインセミナーを実施しているが、昨晩はこんなご質問をいただいた。

「世界経済回復 → 株高、ですか?それとも世界経済減速 → 金融緩和 → 株高、ですか?」

筆者の答えは、「まだどちらかは判断つきかねますが、結論は、どちらに転んでも株価は上がります」というものだった。ただ、昨晩の米国ISM指数などを見る限り、世界経済は減速の度合いを強めていると判断される。今、再び答え直すなら後者のシナリオの示現可能性のほうが高いと言える。もっとも、どっちに転んでも結論は同じだが。



(4) 日本企業の業績とそれに大きな影響を与える為替動向

世界経済の減速懸念を深めるなか、日本の企業業績についてもアナリストによる業績見通しの下方修正が続いてきたが、足元、一巡感が出ている(グラフ4)。これは先の日銀短観の結果と整合的だ。日銀短期(正式には「全国企業短期経済観測調査」)とは、全国約1万社の企業を対象に、3か月に1度実施される統計調査で、企業が自社の業況や経済環境の現状・先行きについてどうみているかを調べるものだ。その企業からの答えが「改善している」という結果になった。当の企業が改善していると答え、先行きも上向くとみているのだ。つまり、日本企業の景況感は「悪くない」のである。



日銀短観も企業へのアンケート調査によって景況感を測るという性格から、米国のISMと同様であり、当然のように株価と相関関係がある。グラフからは日銀短観のDIが株価の先行指標となることが見て取れよう。



景況感改善の背景は為替レートの安定だろう。今年度に入ってからドル円の推移は大雑把に言って78円〜80円程度だ。これはほぼ企業の想定為替レートの水準であり、ほとんど動いていない。これまで日本の外需企業は円高で利益の目減りが続き、それが業績の重石となってきたが、今期に関しては今のところ円高→下方修正の懸念はないと言える。

ではなぜドル円は動かないのだろうか?これも端的に言って、ドル円相場の決定要因である日米金利差(特に2年債の利回り格差)が、もうこれ以上縮小しようがないところまで下がってしまったので、動かなくなってしまったと考えられる。あえて言えば直近はFRBのツイストオペの効果もあるのだろう、米国の2年債利回りが30bps近辺まで上昇したあとその水準でとまっているため、ドル堅調の背景となっている。



日本企業の景況感は悪くなく、アナリストによる業績予想の下方修正も一巡した。業績の足を引っ張る円高にも歯止めがかかっている。今月後半から始まる4-6月期の決算発表で業績の下ぶれ懸念は限定的だろう。堅調な業績を確認できれば、日本株はじわりと水準訂正の動きとなろう。世界景気が減速感を強めるなか、日本企業の業績堅調ぶりが却って際立つことになればグローバル・マネーの資金流入も期待できるだろう。





あなたの確信度の合計が280%を超える場合のみ、サマーラリー到来に賭けてこの水準から日本株に投資することをお勧めする。それ以下の確信度の場合は投資を見送ったほうがよい。

<まとめ>

1.欧州債務危機の最悪期は過ぎた。無論、何回も蒸し返されるので「完全なる危機収束」というのは初めから想定しないほうがよい。それでも「何が起こるか分からない」「リーマン危機を超える惨事になる」という過度な不安は後退している以上、リスク資産にとって投資環境は間違いなく改善したと言える。

2.米国景気は減速している。しかし、金融緩和期待が下支えになることに加え、住宅市況の底入れという光明も見え始めた。過去のパターンを踏襲して秋口には景気も持ち直すと考える。

3.世界的な金融緩和が過剰流動性相場をもたらすと思われる。

4.日本の景況感は悪くない。円高にも歯止めがかかっており業績の堅調さをグローバルに評価される可能性もある。

こうしたことを背景に日経平均は目先、26週移動平均を超える9,200円どころが上値目途となろう。来週になると一目均衡表の雲の上限が9,250円程度まで下がってくる。その機を捉えて雲の上に出れば「三役好転」となって相場の地合いは一段と改善しよう。夏場にかけて1万円程度までの戻り相場を想定している。




(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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