メルカリが鹿島アントラーズを傘下にメルカリが鹿島アントラーズの経営権取得を発表し、記者会見で手を組む(右から)メルカリの小泉文明社長、鹿島の庄野洋社長、日本製鉄の津加宏執行役員 Photo:JIJI

ファンやサポーターを含めて、日本サッカー界に大きな衝撃を与えた鹿島アントラーズの経営権譲渡。日本を代表する重厚長大型企業の日本製鉄株式会社から、創業わずか6年半で急成長を遂げたIT企業の株式会社メルカリへ筆頭株主が変更される舞台裏を探ると、Jリーグを代表する名門がさらなるビッグクラブへ成長するために下したポジティブな決断と、日本サッカー界に訪れた新たな潮流が浮かび上がってくる。(ノンフィクションライター 藤江直人)

昨年の営業収益はクラブ史上最高額
経営権譲渡でも「悲哀」はない

 経営権の譲渡。完全子会社化。あるいは、筆頭株主の変更。一連の言葉から伝わってくるのは、芳しくない状態が続く企業業績を好転させるために下された決断――となるだろう。

 サッカー界においては、昨年4月にRIZAPグループ株式会社の傘下に入った湘南ベルマーレのケースが象徴的だった。かねてから「選手がもっと夢を持てるクラブにならないと」と繰り返してきたベルマーレの眞壁潔代表取締役会長は、記者会見の席で感極まって声を震わせている。

 昨秋に株式会社サイバーエージェントの完全子会社となったFC町田ゼルビアも然り。長くJ1昇格への障壁となってきた天然芝のピッチを1面以上有する専用練習場、設備基準を満たしたクラブハウスを確保するハード面の課題を、今シーズンの開幕前にはほぼクリアしている。

 翻って、フリーマーケットアプリ大手の株式会社メルカリ(本社・東京都港区)への経営権譲渡が発表されたJリーグを代表する名門、鹿島アントラーズのケースからは「悲哀」や「断腸の思い」といった類の、いわゆるネガティブなイメージはいっさい伝わってこない。

 実際、アントラーズを経営する株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー(本社・茨城県鹿嶋市)の庄野洋代表取締役社長は、経営状態は極めて良好な状態にあると明かしている。

「去年もしっかり稼ぎましたし、他のJクラブに比べたらすごくいいですよ」

 Jリーグが開示している全クラブの昨年度決算を見ると、アントラーズは営業収益でクラブ史上最高額となり、J1全体でも3番目に多い73億3000万円を計上している。4億2600万円の当期純利益、21億6600万円の純資産もともにJ1で2番目に多い数字だった。