現在、7万部のベストセラーとなっている山口周氏の最新刊『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』。その中で山口氏は、極めて頭脳明晰な人材が正しくマーケティングを実施して生み出したプロダクトが、ことごとく失敗した例を多数紹介している。
AIが100万円で手に入るようになり、オールドタイプの「頭脳明晰さ」がもはや価値を持たなくなる時代は、すぐ近くまで来ている。その時代に、人間が本当になすべきこととは何なのか?(構成:松隈勝之)

この記事は、大企業、NPO法人を中心に有志の経営者や次世代リーダーが集うクローズドのコミュニティー新G研(新グループ経営改革推進研究会、運営:ファインド・シー)の7月19日の定例会にてなされた講演を再構成したものです。
【山口周】「AIが100万円で買える時代」に<br />人間が本当にすべきこと

2億人の中の2人に圧勝したIBMの「ワトソン」

山口周さん(以下、山口):正解が過剰だということは、本当に気をつけなければいけないと思っています。2011年に、アメリカの人気クイズ番組でIBMの高性能コンピュータ「ワトソン」が、歴代チャンピオン2人に圧勝したことがニュースになりました。

クイズ番組に求められることはまさに正解を出すことですが、その正解を出すということに関しては、人間のチャンピオン2人、2億人の中の2人でもかなわなかったわけです。

にもかかわらず、いまだに優秀な人たちを測る典型的な物差しとなっているのが偏差値です。偏差値の高い人が優秀だと誰もが思っている。書店のビジネス書コーナーには「東大生の~」という本が数多く並べられ、もてはやされています。

2017年には、グーグルのアルファ碁が囲碁のチャンピオンと対戦して、30戦30勝しています。人間は1勝もできなかった。チェスや囲碁、将棋に関しては、もう人間はAI(人工知能)に全く歯が立ちません。

受験は、まさにパズル、クイズのようなものですから、人間が目ざす価値というものを考え直すべきときにきているのです。そこでヒントになるのが「東ロボ君」です。AIが東大に合格できるかという実験を、数学者の新井紀子さんが行っていましたが、結局挫折してしまいました。

挫折した理由は何かというと、AIは読解問題ができなかった。パズルとかは解けるのですが、意味を解釈して、人間の気持ちを代弁したコメントを書くという問題は、全然できなかったのです。

あと10年もすれば、AIが100万円で買える

山口:ただ、この「ワトソン」のようなAIが、近い将来100万円くらいで買えるようになります。というのは、1997年のチェスの世界チャンピオンになった「デープブルー」は、当時1億円くらいしたのですが、今は100万円ほどで買えるのです。

20年たてば、1億円のAIが100万円になる。ということは、「ワトソン」がクイズのチャンピオンを破ったのが9年前ですから、あと10年もすれば、「ワトソン」のようなAIも100万円で買えるようになる可能性が高いわけです。

人間を一人雇うと、みなさんもご存知の通り、年間500~600万円かかります。しかもこの雇った人間は、1日8時間以上働かせることができなくて、週に2日休ませなければならない。一方、100万円の「ワトソン」は、1日24時間働くわけです。週7日、1年365日働いて、「この間の仕事良かったよ。ワトソン君」なんて言わなくても、つむじをまげたりしない(笑)。有給休暇も、昇給も必要ないのです。

つまりどういうことかというと、人間が持っているただ単にクイズやパズルを解くといった偏差値で測られるような仕事を、これから先、経営者は、人間に任せなくなるということ。なかには美意識がある人がいて、ビジネスというものは人間がやるもんなんだ、という会社もあるかもしれませんが、競争に負けてしまえば市場から淘汰されてしまいます。

そうすると人間を雇ってどういう競争原理をつくっていくのかが求められることになる。そこで考えなければいけないのが、マーケティングという問題です。