起業家と作家が語る SFとリアルの間

連載第3回ではビジネスとSFのリアルなつながりを、起業家と作家に語ってもらおう。最初に登場するギリア社長の清水亮氏は、複数のベンチャー企業経営に関わった後、2017年にソニーコンピュータサイエンス研究所などと共同で、人工知能(AI)ソリューション開発のギリアを設立。ごりごりのSFファンである清水氏が、ビジネスパーソンに向けてSFに触れるべき理由を熱く語った。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)

小松左京こそが
本物のハードSFだ

起業家と作家が語る SFとリアルの間ベンチャー界きってのSFファンである清水亮氏 Photo by Kazutoshi Sumitomo 

――清水さんはIT業界でも屈指のSFファン。今回のテーマにはぴったりです。

 今日は小松左京の話をしようと思って準備しました。なんで小松左京かというと、そもそもは樋口さん(「シン・ゴジラ』などの映画監督、樋口真嗣氏)です。最近、樋口さんと週3回ぐらい会っていまして。彼は「日本沈没」の2006年版を監督しているんですが、「小松左京の素晴らしさをみんな理解していない!」と言って、小松左京音楽祭なるものまで企画しちゃった。11月に開催するためにクラウドファンディングをやっているんです。

――樋口さんと週に3回も?仕事ですか。

 いや、単に僕が樋口さんを好きなだけ。樋口さんからはいろんな刺激をもらっています。インサイトや新しいものの見方をくれる人なんです。それで彼と僕とで語っている「小松左京のすごさ」が何かっていうと、本物のハードSF(科学的な知識や論理に基づいたSF)だということです。米国のハリウッド映画にも幾つかハードSF的なものがあるけれど、大体がうそですよね。

――「インターステラー」なんかはハードSFじゃないですか。

 いやいや、ハード“風”です。謎の気候変動が起きて、地球に住めなくなるという前提ですが、その前提が科学的に説明されていない。それが小松左京の『日本沈没』の場合は、訳もなく日本が沈没するんじゃない。地震大国の日本で、地震がどんどん起こって、ついにマントル対流の動きによって沈没の危機が迫る。そういう科学的なメカニズムがちゃんと書いてある。これ、発表当時の本(1973年刊の光文社カッパ・ノベルス)ですけど、奥付を見たら驚くよ。

――初版から3カ月で、58回増刷している。すごいですね。

 1ページ2段組み、かつ上下巻っていうすごいボリュームなのに、めちゃくちゃ売れたんです。それは「本当に起こりそう」という衝撃があったからだと思います。日本でこのまま地震が続いたらどうなるか。科学的仮説を積み重ねれば沈没は十分あり得るというリアルな恐怖感が、この本が売れた原動力です。何の根拠もなく流星が落ちてくるみたいな話だったら、ここまで売れなかったはず。そもそも、落ちなくていいものが落ちてくるのは単なる寝言です。