バイロイト祝祭劇場バルコニーで演奏される開幕のファンファーレ Photo by Susumu Kawamata(以下同)

バイロイト音楽祭は、毎年7月末から8月末にかけてドイツ・バイエルン州のバイロイト祝祭劇場で開催される夏の一大イベントだ。世界各地のクラシック系音楽祭と違うのは、リヒャルト・ワーグナー(1813~83)の主要な楽劇10作から選んで公演する、ワーグナーだけの音楽祭だということだ。ドイツだけでなく、欧米や日本などから多くのワーグナー・ファン(ワグネリアンという)がバイロイトへ向かう。ドイツのメルケル首相もワグネリアンで、毎年初日に聞いているそうだ(文中敬称略)。(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)

「8年待ちチケット」だったが
今は2週間前でも購入可能に

 非常に限られた開催期間で、それほど巨大な劇場でもない。座席数には限界がある。全部で30公演ほどだから、1回約2000席としてチケットは全部で6万枚しかない。このうち3分の1はスポンサー筋やVIPに回るといわれており、一般に発売されるのは3分の2として約4万枚ほどだろう。私の推計だが、横浜アリーナ2回分なので、けっして多いとはいえない。

 これでも一般販売チケットは、かつてよりは増えたのだそうだ。2009年にバイロイト音楽祭共同監督に就任したワーグナー家4代目、カタリーナ・ワーグナー(1978~)が伝統に凝り固まったバイロイト音楽祭を開放する策を導入し、ネット販売を増やしたのだという。財政支援している連邦政府や州政府の方針もあったかもしれない。音楽祭の運営主体は政府なども拠出している財団法人だからだ。

 そしてそれから10年、たしかにチケットは入手しやすくなっていた。2009年以前は、各国のワーグナー協会経由でチケットを申し込む方法が知られていたが、だいたい「8年待ち」と言われたものだ。根気強く貯金しながら、ひたすら順番待ちするという19世紀のようなスタイルだった。

 2019年夏のバイロイト音楽祭で2公演を聞いてきたばかりのワグネリアン、建築家の川又進によると最近のチケット入手事情はこうだ。

「バイロイト音楽祭のホームページで会員登録し、アカウントを作成してチケットをオーダーします。これが毎年9月の1次販売、つまり1年前の手順です。翌年2月に抽選の結果が出て、まあだいたい外れる。そして4月に2次販売があります。この段階では全日程の空席状況をリアルタイムで検索できます。毎日ネットで見ていると、けっこう空席は出てきますよ。私の友人は今回、本番2週間前でも空席を見つけて購入したそうです」

 なるほど、日本のポップス歌手やバンドのチケット入手方法と変わらない。1年前になんらかの方法で大量におさえたマニアがたくさんいたとしても、結局キャンセルも大量に出てくる。それをリアルタイムで検索して購入できるとは、10年前まで想像もできなかったことである。バイロイト音楽祭なんて、我慢強い人か、コネのある人しか聞けないと思っていたのだが、そうでもなくなったようだ。