六本木のビルに着いた。

 森嶋はダラスと理沙を連れてビルの中に入った。

 ロビーには長谷川と早苗が立っていた。

 ダラスが突然、立ち止まった。

 信じられないといった顔で長谷川を見ている。

「長谷川新之助博士ですね。私はあなたを知っています」

 笑みと多少の緊張を含んだ表情で、ダラスは長谷川に近づいて握手を求めた。

「お会いしたことはありましたか」

「はい、一度」

 長谷川はダラスを見つめているが思い出せないようだ。

「スプリングシティを覚えておいでですか。ニューヨーク近郊の小さな町です」

「もちろんです。私はその町で公園を造りました。緑の多い安らぎをテーマにした公園です」

「あなたはオープニングセレモニーに出席なされた。そのとき、花束を渡した少年を覚えておいでですか」

「たしか足の不自由な少年だった。私はお礼に日本の折り紙を送りました。それでツルの折り方を教えました。1枚の紙が無限の空間につながることを知ってもらいたかった」

「私の息子です。彼はあなたと握手をし、紙の鳥の折り方を教わったことを誇りに思っています。そして彼は今もその鳥の折り方を覚えています」

「あの公園は私の代表作です」

「子供たちはあの公園で育ったようなものです。子供たちばかりでなく、あの町の大人もです。私たち夫婦はよく散歩をしました。心安らぐ空間です」

「お子さんたちは──」

「長男はあなたと同じ建築家です。二男と長女は大学で都市工学とアートを専攻しています。あの公園の影響が強かったのかもしれません」

「私の作品が多くの人に愛されることは私の誇りです」

「私はワシントン州のサンランドにも行ったことがあります。私の妻の故郷です。あの市庁舎は素晴らしい。機能性と合理性を兼ねている。その上、美しい。心に残るものだ。あの建物もあなたの設計でしたね」

 ダラスは興奮した様子で長谷川に話しかけている。