映像を軸として番組、アニメ、映画、VRなどのエンターテイメントの創出を得意とするコンテンツスタジオ CHOCOLATE Inc.(以下、チョコレイト)。今、ウェブマーケティング業界で注目の同社が今年の7月、新たな動画サービス「瞬間ゼミ」を公開した。コンセプトは「スキマ時間に、秒速インプット。」スマホに最適化された「速動画」で、人気ビジネス書のエッセンスを吸収できる。

今回、チョコレイトのプランナー・冨永敬氏と大澤創太氏、そしてチョコレイトとタッグを組んだ出版社のひとつダイヤモンド社宣伝プロモーション部部長の松井未來氏、同社第一編集部編集長の市川有人氏の「4者座談」が実現した。前編となる今回は、「そもそもなぜダイヤモンド社がチョコレイトとタッグを組む決断をしたのか」を探る。

人気ビジネス書の「映像化」が実現した背景

「本づくりのプロ」と「コンテンツづくりのプロ」で新しい試みを

――「瞬間ゼミ」についてお話を伺う前に、まずは冨永さん、「チョコレイト」とは何者なのかを教えてください(笑)

人気ビジネス書の「映像化」が実現した背景冨永敬(チョコレイト プランナー) 1985年生まれ。香港育ち。広告のプランナーとして10年間、話題づくり、行列づくりに没頭。アクティベーションを中心に、CM、PR、デジタル、イベントと、多様な手法を武器に企画、実現する越境系プランナー。2015年より、メディアアーティストしても活動。特定の分野にとらわれず、新しい体験を生み出すべく企画・作品制作を行っている。2019年、ラクガキを仕事に。XR領域での好奇心拡張中。世界三大広告賞Cannes Lionsをはじめ、国内外の広告賞を受賞多数。第21回メディア芸術祭「アート部門」審査委員会推薦作品選出。WIRED CREATIVE HACK AWARD2017 Finalist ほか。

冨永敬氏(以下、冨永) まずはそこですよね(笑)。
チョコレイトとは、動画を中心に、さまざまなメディアを横断して新しい企画をつくっていく「コンテンツスタジオ」です。中でも大きな反響をいただいているのが「6秒商店」という企画

「6秒で欲しくなる雑貨専門店」をコンセプトに、「こんな商品があったらいいな」という架空の商品を6秒間の動画でプレゼンしています。いろいろな領域から来た人間が集まっているのが特徴で、ぼく自身は広告畑出身ですし、中にはTikTokで活躍する人もいる。多種多様な人材が集まって新しい企画を生み出しています。

――そのようなコンテンツスタジオ・チョコレイトが生み出した新たな企画が「瞬間ゼミ」。立ち上げた狙いは?

冨永 動画は今、「時間に対する情報量」がひとつのテーマになっています。一定時間の中に、どれだけの情報量を詰め込めるかが勝負。そこで「コンテンツがぎっしり詰まった『ビジネス書』というメディアを、超短時間に凝縮して動画で発信できないか」と考えたのが今回の「瞬間ゼミ」というチャレンジです。動画を見ていただいたらわかるのですが、音声スピードは通常の1.3~1.5倍ほどで、ともすれば「聞きづらい」と思われかねないくらいの編集をしています。それくらい「一定時間内にできるだけ多く情報を詰め込む」ことを意識しました。

――「瞬間ゼミ」で取り上げる書籍や出版社はどのような基準で選んだのですか?

冨永 「瞬間ゼミ」は、7月18日、19日に開催された「SoftBank World 2019」に向け、SoftBankさんとのタイアップで実現した企画です。最新のテクノロジーを追求している企業の応援をいただいたこともあり、「瞬間ゼミ」でご一緒させていただく出版社さんもビジネス情報を多くもたれているところがよいと考え、ダイヤモンドさんをはじめ数社にお声がけさせていただきました。

――松井さんは、チョコレイトさんのオファーを受けてどう感じました?

人気ビジネス書の「映像化」が実現した背景松井未來(ダイヤモンド社 宣伝プロモーション部 部長) 大手航空会社、外資系監査法人、外資系出版社等を経て入社。2015年から現職。『嫌われる勇気』、『ゼロ』、『やり抜く力』他、書籍・雑誌のプロモーション全般を担当。

松井未來(以下、松井) お話をいただいてすぐに「ぜひお願いしたい」と思いました。

少し前まで、「映像メディア」のメインはテレビでしたよね。テレビは誰かと一緒に見ることができるし、自分との間にはある程度の距離があるので情報が「外向き」に発信されるメディア。一方で読書は、自分と本の間に距離がない、自分とじっくり向き合う「内省」の時間をつくるメディア。つまり「映像は外向き、読書は内向き」という役割分担が明確だった気がするんです。でもスマホが普及し、SNSが発達するにつれ、自分との距離が近づき、映像コンテンツもだんだん、視聴者と1対1の「内向き」のものが増えてきました

また、スマホによってあらゆる行動がワンストップになりました。かつては商品がテレビで紹介されても「その商品を覚えるためにメモを取る」といったステップが購買に至るまでには必要だったのが、スマホでは気になった瞬間、買うことができる。

そんな時代にあって、出版業界でも「動画とうまく付き合っていかなければならない。でも、どうすればいいか……」と試行錯誤の状況が続いています。そのタイミングでオファーをいただいたので、「これは、本づくりのプロとコンテンツづくりのプロが直接手を組んで問題を解決する、いいチャンスだ」と感じました。今や動画はプロでなくてもだれでも簡単につくることができます。たとえば編集者や宣伝担当が書籍のPR動画をつくることも、できることにはできます。でもそれが見る側にとって有益なものなのかどうかはわからない。ならば自社で不慣れな動画をつくるより、編集のプロがつくった本を、コンテンツのプロに動画でどう料理していただけるかを見てみたいと思ったんです。

――「チョコレイトと組んだら面白い」と思ったポイントはどこにありますか?

松井 チョコレイトさんは才能あるプランナーがつぎつぎと参画している「すごい集団」だという認識がすでに社内にもあり、信頼度が高かったことがまずあります。

チョコレイトさんには広告代理店出身者が多いということも知っていましたが、広告代理店は基本的にはクライアントありきで、クライアントの問題解決のためにコンテンツをつくります。一方チョコレイトさんには「コンテンツで世の中に新たな価値を創造していくんだ」という気概を感じる。「コンテンツありき」の発想なんですよね。それは編集者の感覚と非常に近い。あぁ、こういうことがやりたかったからみんな、広告代理店を辞めたのかな(笑)なんて、思いました。

冨永 そこまで深く私たちのことを考えてくださっていたとは!(笑) 感激です。

手前味噌になりますが、ウチには本当に、若くて気概のあるプランナーが集まっているんです。今回『チームの生産性をあげる。』の「瞬間ゼミ」動画をつくった大澤も、まだ大学を卒業して半年も経っていませんが、学生時代から自分でいろいろ情報発信してきた人間です。10代の早いうちからスマホに接し、自由に表現してきた、まさにデジタルネイティブ。視聴者にデジタルネイティブが増えてくる中で、つくり手にもデジタルネイティブがどんどん加わってくれるのが心強いですね。