『週刊ダイヤモンド』9月14日号の第1特集は「薬局戦争」。今や6万店近くと、コンビニよりも多い薬局が転換期を迎えています。大手ドラッグストアチェーンの経営統合で、売上高1兆円の“メガ薬局”が初めて誕生したことで、本格的な薬局戦国時代に突入しようとしています。

ドラッグ業界の西の雄が
越谷で郊外大型店を計画

 埼玉県越谷市の東武鉄道伊勢崎線せんげん台駅。改札を出て西へ延びるバス通りを10分ほど歩く。

 3階建てのイオンせんげん台店に着くまでの間、通り沿いには大手ドラッグストアのカワチ薬品、富士薬品が展開するセイムスの他、複数の調剤薬局が軒を連ねていた。もちろんイオンの店内にも、イオン薬局が入居している。

 そしてそのイオンとバス通りを挟んだちょうど真向かいに、サッカーコートの半分ほどの空き地がひろがっていた。標識によれば、敷地面積は3636m2。10月1日に着工し、床面積1759m2の鉄骨平屋建てを建築するとある。

 開発者は、福岡市に本社を置くコスモス薬品――。ここはドラッグストア業界の西の雄、コスモス薬品が関東で初出店する郊外大型店の開発予定地なのだ。

イオンせんげん台店の真正面に広がるコスモス薬品の開発予定地(埼玉県越谷市)
Photo by Takeshi Shigeishi

 この地は都市再生機構(UR)のパークタウン三番街の一角にあり、1980年代に開発された団地では住民の高齢化が進む。周辺にドラッグストアが林立するのは、こうした典型的な郊外住宅地の商圏を見込んでのことであろう。 「コスモス薬品は安売りの店ということで知っている。昔は田畑しかない地域だったが、商業施設が増えれば便利になる。オープンが楽しみだ」。イオンに毎週買い物に訪れるという70代の男性は、開発予定地を見つめながら、そう話した。

コスモス薬品のせんげん台店は、今年度中にオープンする予定だ。恐らくそれが、ドラッグストア業界における新たな“首都圏攻防戦” の号砲となる。

出店地域に“血の雨”が降る
西から進む淘汰の嵐

 コスモス薬品は2004年に九州以外で初となる店舗を山口県山口市で開店して以来、中国、四国、関西、中部へと東進を続けてきた。

 関ケ原を突破した今、コスモス薬品が見据えるのは巨大人口を抱える肥沃な関東平野の攻略だ。今年に入り、広尾駅店(渋谷区)、中野サンモール店(中野区)、西葛西駅店(江戸川区)と都内に3店舗を開店している。

 だが、この3店舗はいわゆる都市型の小規模店であり、コスモス薬品からすれば、インバウンド集客や調剤併設型を試す実験的な「副業」(同社の横山英昭社長)にすぎない。彼らの「本業」は、自らの力を存分に発揮できる売り場面積1000m2超の郊外大型店の展開だ。

 コスモス薬品の急成長を支えるのは、徹底した低価格路線とそれを支えるローコストオペレーションにある。

 「毎日安い(エブリデイ・ロー・プライス)」戦略を掲げ、販促を一切行わない。特売のための値札の張り替えや無駄な陳列作業を廃することによりコストを可能な限り抑制し、小規模商圏での多店舗展開で物流や店舗作業の平準化を徹底する。

 コスト抑制の徹底ぶりを示すのが販売管理費の低さだ。19年5月期の販管費率は約16%。小売業の大半が20%を超える中で群を抜いており、業界最低水準の粗利率にもかかわらず247億円の営業利益を確保している。

 食品の売り上げ構成比の高さもコスモス薬品の特徴だ。19年5月期は56%に達し、最大手グループのツルハホールディングス(HD)やウエルシアHDの22%を大きく上回る。ドラッグストアというより食品スーパーに近い業態であり、これにより消費者の来店頻度を高めているのだ。

 「コスモス薬品が出店した地域では“血の雨”が降る」――。小規模商圏を面で制圧し、低価格戦略によって競合店を駆逐する手法を、ある業界関係者はそう評する。

調剤薬局、ドラッグストア、薬剤師
転換期を迎えた薬局

 『週刊ダイヤモンド』9月14日号の第一特集は「薬局戦争」です。

 今や6万店近くとコンビニよりも多い薬局が今、転換期を迎えています。ドラッグストア大手のマツモトキヨシホールディングスとココカラファインが、経営統合に向けた協議に入りを発表。売上高1兆円超の“メガ薬局”が初めて誕生します。また、薬局の収入源である調剤医療費は7.7兆円を突破し、政府は医療費削減に旗印にメスを入れようとしています。

 特集ではマツキヨ・ココカラの経営統合協議入りの舞台裏を詳報。1兆円薬局の誕生が鏑矢となり、3タイプに分化していくと予想される業界大再編の行方を徹底予想しました。

 一方、ドラッグストアの隆盛に押される形になっているのが調剤薬局。とりわけ病院の前に乱立して荒稼ぎする門前薬局の存在意義が問われており、今秋に予定される診療報酬の改定や医薬品医療機器法の改正は厳しいものになることが見込まれています。

 ここまで薬局が膨張してきたのは、薬という商材を扱うことができるから。病院よりも薬局の薬の方が高い調剤医療費7.7兆円のカラクリや、OTC医薬品(大衆薬)でドラッグストアが荒稼ぎできる秘密を解き明かします。

 こうした薬局の競争が激化する裏側で、現場の最前線に立つ薬剤師は疲弊しています。かかりつけ薬剤師やお薬手帳、ジェネリックなど国の施策に振り回される現場の生の声を覆面座談会で暴露してもらいました。

 さらに、薬剤師の“金の卵”である薬学部生は就職の勝ち組。奪い合いが続く薬学部生の就職先について、モデル年収や初任給、就職難易度ややりがいなど、最新の就職ヒエラルキーをまとめました。

 ドラッグストア、調剤薬局、薬剤師――。激変する薬局の最前線に迫った一冊です。ぜひご一読ください。