時計の針を1年ほど巻き戻した2007年4月25日。安倍晋三首相(当時)の訪米を翌日に控えた米上院本会議で、「日本重視」の熱弁をふるった民主党系議員がいる。ほかならぬバラク・オバマ上院議員その人である。
 
 この演説でオバマ氏は、日本を指して、米国の経済政策・安全保障政策のアンカー(碇)と形容したほか、安倍前首相の公約「戦後レジームからの脱却」を援護射撃するかのように、独自のアイデンティティーとビジョンを持つ「普通の国」として扱うべきと繰り返し強調した。

 昨年春といえば、歴史認識問題で日米間にちょうど隙間風が吹いていた頃だ。国内向けにリップサービスしても得する時期ではない。それだけに、オバマ氏の対日外交を先読みする上では、注目に値する発言だろう。

 じつは、オバマ氏の外交チームには、知日派が多い。

 その最たる存在は、第2期クリントン政権時代(1997年~2001年)に国防総省の日本担当部長や国防長官のアジア担当特別補佐官を務めたデレク・ミッチェル氏だろう。1998年には、同省による「East Asia Strategy Report(東アジア戦略報告)」のとりまとめで中心的役割を果たした。

 ちなみに、アジア太平洋地域における米軍のプレゼンス維持を唱えた、この報告書は、日米同盟については、「21世紀においても米国のアジア安保政策の要である」と位置づけている。

 昨年4月の演説の草稿づくりには、ミッチェル氏のほか、複数の知日派の知恵袋が関わったといわれる。ワシントンDCに本拠を置く民主党系有力シンクタンクの幹部は、「オバマ氏の外交チームには、日本語を流暢に操る上級幹部が意外なほど多い」と舌を巻く。「東京駐在経験の長い元ビジネスマンや元ジャーナリスト、あるいは、日本の政府機関系の研究所などで客員研究員を務めていた学者も数多く外交団に名を連ねている」。

 民主党の大統領候補予備選スタート後、アジア外交といえば、良きにつけ悪しきにつけ、中国に関する発言ばかりで、日本に言及することが皆無に近かったため、オバマ氏は対日外交を軽視しているとの観測が主流だったが、真実はどうやら違いそうだ。