株式レポート
7月11日 18時0分
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金利が下がってもお金が行き渡らない理由 - 村上尚己「エコノミックレポート」

・昨日(7月10日)日経新聞に、「企業に対する貸出金利が1%割れ カネ余りでも投資に慎重」という記事が掲載された。企業に対する銀行の貸出金利が平均で1%を下回り、過去最低水準を下回ったことをうけての記事である。

・この中で、貸出金利が低下しても企業の銀行借入れが増えない状況について、「先行き不透明感から企業は借金して投資することに慎重」と解説されている。そして、「空前のカネ余りの状況で、実体経済にはお金が行き渡りにくい」と分析されている。

・銀行の貸出金利が1%以下まで低下し、それでも銀行貸出しの増加に結びつかない状況は、一見すると「手の打ちようがない」ことにみえる。ただ、企業の貸出しが増えない理由として、「企業の先行き不透明感」が原因と記事で解説されているが、これについてより正確な描写が必要だろう。

・実際には、名目貸出金利がいくら下がっても、企業にとって「金利負担(コスト)」が高ければ、企業が借入れを増やすインセンティブは高まらない。「先行き不透明感」という曖昧な要因ではなく、企業にとって「借入れコスト(負担)」が依然大きいため、名目金利が下がっても、企業による借入れが抑制されるメカニズムが働く。

・この現象を理解するには、「実質金利」という考え方がカギとなる。「実質金利=名目金利―予想物価上昇率」という関係式で表される。多くの企業が、物価(これに売上が連動する)低下が続くと予想すれば、仮に名目金利が下がっても実質金利は高止まる。企業からすると、売上や利益が減り続けると考えれば、借入れによるコストをカバーできないから、借金のハードルが高くなる、ということだ。

・6月20日レポート「デフレの害悪〜症状だけではなく停滞の原因〜」において、デフレが経済の停滞をもたらす要因として、デットデフレーションのメカニズムを説明した。ここでも紹介したが、デフレが続く中では、借金する債務者が「富を失い続ける」ため、リスクテーカーである企業による新規事業への投資が抑制されてしまう。

・日経の記事では、「カネ余り」や「融資先が乏しい」側面だけが強調されている。確かに大企業にとって資金繰りは総じて楽で、「カネ余り」の状況にある。企業からみた「銀行の貸出態度」の状況をみると、大企業にとって銀行の貸出態度は決して厳しくない(グラフ参照)。


・一方、日々の資金繰りを含め銀行からの資金調達に頼る中小企業からみると、銀行の貸出態度は大企業のように楽ではない。企業によっては「カネ余り」には程遠く、十分な借り入れができず、そして利払い負担に苦慮している。

・日本経済が「実質金利の高止まり」から脱して、銀行貸出が増えるようになるには、2005年以降のようにデフレから抜け出す展望が見える経済環境に好転することが必要である。先ほどのグラフをみても、そうした時期から、「実質金利」の低下で、中小企業が実感する銀行の貸出態度は和らいだ。つまり、お金が経済に幅広く行き渡るには、デフレの終焉を多くの人が感じられるようになればよいわけだが、残念ながらそうした状況が訪れるには時間がかかりそうだ。


(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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(マネックス証券)


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