病院で死にたくはないが、在宅医療はなかなか難しい。そんなジレンマを解消すべく、医師の監督の元で簡単な診断や薬の処方などを行う「フィジシャン・アシスタント(PA)」という仕事に注目が集まっている。

医師や看護師をサポート
在宅医療「PA」とは

PAの作業風景看取りのプロフェッショナルであるPAは、在宅医療チームの「ハブ」を担う重要な仕事。現在、公的資格化が検討されている

 超高齢化社会の日本。2035年には、年間170万人の死亡者のうち約47万人が入院できない、死に場所がない――。そんな恐ろしい調査結果がある。

 ならば在宅医療に頼るしかないが、こちらも深刻な人手不足が問題になっている。在宅医療は、ただ診察するだけではなく、患者や家族の希望を聞き取り、調整が求められる。高度なコミュニケーション能力が必要なため、医師や看護師だけではこなせないのが現状である。

 こういった現状を背景に、いま注目を集めているのが、PA(Physician Assistant:フィジシャン・アシスタント)という職業だ。これは医師の監督のもと、簡単な診断や薬の処方などの医療行為の一部を担う専門職。アメリカやイギリスでは医療資格として以前からあるが、日本ではまだ公的資格にはなっていない。

 東京・板橋区にある「やまと診療所」は、2013年にできた在宅医療中心の診療所である。重度の高齢者の在宅診療を中心に行っている。独自の研修制度を設けて在宅医療PA(以下PA)を育成しており、現在、見習いも含めて30名がPAとして活動している。

 PAは、具体的にどういった業務を担うのだろうか。

 まずは診察の補助。医療器具の準備、バイタルチェック、カルテの準備などを行う。患者さんが自宅で過ごすための様々な支援も大きな仕事だ。福祉用具を導入する際には家族やケアマネージャー、ヘルパーと相談して環境を整えていく。そして患者さんが希望することをていねいに聞き出し、実現につなげていく。これらが主要な業務である。

「家で死にたい」を叶える在宅医療、普及のカギを握る新職種「PA」とは3年間の研修を終え、認定PAとして活動する木村圭祐さん(29歳)。困っている人の役に立ちたいとPAを選んだ

 PAとして勤務する木村圭祐さん(29歳)に聞いてみた。3年間の研修を終え、認定PAとして活動する木村さんは、学生時代に院長のカバン持ちのバイトからスタートし、その後正社員として入職した。

「以前、末期がんを患っていた70代の1人暮らしの男性を担当したことは、いまも記憶に鮮明に残っています。その方は大の競馬ファンで、東京の水道橋にある場外馬券売り場へどうしても行きたいと言われました。毎日点滴が欠かせない状態で、外出するのは難しかったのですが、思いを叶えてあげたいと、ドクターや看護師、ヘルパーに相談しました。工夫を重ねて、念願の馬券売り場へ行くことができ、喜んでおられました」(木村さん)