ベストセラー『教養としてのワイン』の著者であり、世界的なオークションハウス「クリスティーズ」のニューヨーク支社にてアジア人初のワインスペシャリストとして活躍した渡辺順子氏。彼女の新刊『高いワイン』(ダイヤモンド社)が先日刊行となった。今回は、数々の一流ワインをオールカラーで解説した本書から抜粋する形で、ボルドー不動のトップシャトー「ラフィット」にまつわる驚きのエピソードを紹介します。

渡辺順子(わたなべ・じゅんこ)
プレミアムワイン代表取締役
1990年代に渡米。1本のプレミアムワインとの出合いをきっかけに、ワインの世界に足を踏み入れる。フランスへのワイン留学を経て、2001年から大手オークションハウス「クリスティーズ」のワイン部門に入社。NYのクリスティーズで、アジア人初のワインスペシャリストとして活躍。2009年に同社を退社。現在は帰国し、プレミアムワイン株式会社の代表として、欧米のワインオークション文化を日本に広める傍ら、アジア地域における富裕層や弁護士向けのワインセミナーも開催している。2016年には、ニューヨーク、香港を拠点とする老舗のワインオークションハウス Zachys(ザッキーズ)の日本代表に就任。日本国内でのワインサテライトオークション開催を手がけ、ワインオークションへの出品・入札および高級ワインに関するコンサルティングサービスを行う。著書に『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』『高いワイン』(共にダイヤモンド社)がある。

「私はラフィットしか飲まない」

 メドック格付にて第1級シャトーのトップに選ばれ、「1級中の1級」として不動の地位を確立し続けているのがシャトー・ラフィット・ロスチャイルド(ロートシルト)です。

 18世紀、ルイ15世の愛妾であったポンパドゥール夫人がラフィットを溺愛し、ヴェルサイユ宮殿の晩餐会にて「私はラフィットしか飲まない」と宣言したことから、その名声は確固たるものとなりました。

 宮廷で人気となったラフィットは「The King’s Wine(王のワイン)」と呼ばれて名声を博し、フランス国内ですら品薄状態で、特にイギリスやオランダの輸入業者は獲得に苦労したようです。当時、アメリカ合衆国公使として赴任していたトーマス・ジェファーソンもラフィットに魅せられた一人でした。彼が公使という立場を利用し、ラフィットを何樽も購入していたのは有名な話です。

世界が注目した偽造ワイン事件が、映画化直前でお蔵入りしてしまった「とんでもない理由」とは?ボルドーで不動のトップシャトー「シャトー・ラフィット・ロスチャイルド」。『高いワイン』(ダイヤモンド社)より抜粋

 20世紀後半には、彼が所有していたとされる1787年産のラフィットがパリで見つかり、大きな話題を呼びました。「Th. J」と彼のイニシャルが彫られたこのボトルは「ジェファーソンボトル」と呼ばれ、約10万5000ポンドという破格の値で落札されました。

 しかし、結局このボトルには「偽物」という審判がくだります。詳しく調べた結果、ボトルに彫られていた彼のイニシャルは、当時は存在しない歯を削る機械で彫られていたというお粗末なものでした。

 この騒動は、後にブラッド・ピット主演で映画化が進みましたが、偽物を買ってしまったアメリカの大富豪が自身の名誉のために映画化の権利を買い取り、残念ながらお蔵入りとなっています。