前回述べたように、アメリカの量的緩和政策であるQE1、QE2に関して、直接的効果は認められるが、失業率や住宅価格など実物経済への影響はほとんど認められない。

 ただし、日本の量的緩和の場合とは違って、マネタリーストックは増えた。つまり、銀行の貸出が増えて、信用創造のメカニズムはある程度働いた。

 では、そのマネーは、どこに行ったのだろうか?

新興国バブルは生じなかった

 マネタリーストックが増えた場合の効果としてマクロ経済学が想定しているのは、投資の増加だ。しかし、前回述べたように、投資は増えなかった。

 効果は、主として資産価格の上昇に見られる。

 まず、株価急騰のきっかけにはなった。【図表1】に見るように、ダウ平均株価は、10年9月から11年3月頃までの間に3割近く上昇した。また、国債価格も上昇した。こうして、金融機関のバランスシートは急速に回復した。

 ところで、QE2の実施直後から、「アメリカ発の過剰流動性は世界的なバブルを誘発する」ということが盛んに言われた。「過剰流動性はドル・キャリートレードを誘発して海外にあふれ出す。そして、新興国市場と世界共通の市場であるコモディティ市場に流れ込み、バブルを起こす」との考えである。資源コモディティ分野などでは、「バーナンキ・バブル」「バーナンキ・インフレ」ということが言われた。

 しかし、実際にはそうならなかった。

 【図表2】に見るように、香港の恒生指數(ハンセン指数)は、10年10月頃から若干上昇したが、それほど顕著でない。上海の上證綜合指數(上海総合指数)も10年10月に若干上昇しただけだ。経済危機前の高水準はいまだに回復できていない。

量的緩和政策と「時間軸効果」