FRB(米連邦準備制度理事会)が9月に2度目の利下げを行う中、米国の短期金融市場ではレポ取引(国債等を担保とする短期資金の取引)の金利が急騰した。

 FRBがバランスシートを縮小してきた中、(銀行が連邦銀行に預ける)準備預金が不足がちになり、連邦政府による税金収納と国債発行に伴う資金決済が重なり、ドル不足が生じたことが金利上昇を招いたとされる。

 長らく超過準備(準備預金)が溢れるような金融政策を続けてきた当局が油断していた中で生じた金利急騰と見ることもできるが、FRBの反応は素早かった。

 ニューヨーク連銀は連日巨額の資金供給を行い、またFRBのパウエル議長は準備預金の拡大を表明している。各期間のレポ金利は低下し始め、また、短期金融市場のドル逼迫の影響で上昇しやすいLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)も低下し始めた。

 今後、短期金融市場に安心感が広がれば、LIBORはOIS(リスクフリーレート)に対する上乗せ幅を縮め、さらに低下すると予想されるが、本邦投資家がドル資金を調達する際の金利(ヘッジコスト)は日米のLIBOR金利差を基に算出するため、本邦投資家の外債投資にも影響が及ぶと予想される。

 日本銀行のマイナス金利政策が長期化する中、本邦投資家は外債投資を積極化させてきたが、2017年から18年にかけてのFRBの相次ぐ利上げでヘッジコストが上昇し、米国の債券については為替ヘッジ付きでは投資しづらい環境が続いてきた。

 米国債に対し一定の利回りの上乗せがあるMBS(住宅ローン担保証券)であれば為替ヘッジ後でも利ザヤが確保できたため、一定の投資が続いていたが、その利ザヤもゼロに近づく中、フランス国債や日本の超長期国債への見直し買いが増え、全世界的な長期金利低下の一助となったとされている。

 そのような中、FRBの利下げとそれに伴うドル短期金利(ヘッジコスト)低下によって資金の行き先が変化する可能性もあったのだが、上述のレポ金利急騰はその流れに水を差した格好ともいえる。

 ただ、FRBの英断でヘッジコストは低下しつつある。足元では米銀がドル資金を出し渋る年末に差し掛かり、ドルのヘッジコスト低下は一筋縄ではいかないことがうかがえるが、今後のFRBの利下げの回数次第によっては、ヘッジコストがさらに低下する可能性は十分にありそうだ。

 年末のドル資金逼迫期を乗り越えた来年の1月あたりには米国債と欧州債、日本国債のリターンを比較しながら運用先を選ぶような投資家も増える可能性が高いといえよう。

(SMBC日興証券チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)