植物由来のパテを使ったハンバーガー肉などのタンパク質食材は今後10年程度で、供給不能に陥るといわれている。写真は米ビヨンド・ミートの植物由来のパテを使ったハンバーガー。こういった人工肉を製造するベンチャー企業が、世界で増えている。ディープテックの事例のひとつだ Photo:Beyond Meat

『週刊ダイヤモンド』10月26日号の第1特集は、「5年で大化け!サイエンス&ベンチャー105発」。ベンチャー企業といえばインターネットサービスを連想しがちだが、今一番注目すべきは、サイエンス研究に根ざした新ビジネスだ。世界で「ディープテック」と呼ばれるサイエンス型ベンチャーの潮流を、IT批評家、尾原和啓氏に解説してもらった。

ネット=チャラいテック
では、深いテックとは?

 僕は長年にわたりインターネットの世界を足場として、ネットサービスを立ち上げたり、ネットが産業と社会に与える影響を解説する本を出したりしてきた。そんな僕が今秋、『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』と題した本を、ユーグレナ創業者の1人である丸幸弘さんと共著で出した。世界で無視できない潮流となりつつあるディープテックについて、アジアでの文脈、日本にとっての大切さを込めた一冊で、おかげさまで発売2週間で増版につぐ増版になっている。

 そもそもディープテック=深い技術とは何だろうか? 具体的な例を挙げればバイオやエネルギー関連の技術、先端素材、宇宙関連技術、量子コンピューターのような新しい計算機――そういった分野だ。もう少し説明的な言い方をしよう。研究開発と商用化に長い時間と相当のお金を要する。だが、うまく実現し社会に普及すれば、社会課題の解決方法をがらりと変えうる。そういうパワーのあるテクノロジーだ。

 このディープテックに対して、Eコマースやシェアリングサービスのような従来型のネットビジネスはシャロー(浅い)テックと呼ばれる。日本ではチャラいテクノロジー、チャラテックという言い方もされている。

 米ボストンコンサルティンググループなどのリポートによると、ディープテック分野への民間投資は2018年までの4年間で年平均2割伸び、178億ドル(約1.9兆円)に達している。米国と中国という2つの大国だけでなく、ドイツや英国、イスラエルといった国でも投資が活発化している。

 投入されている総額は、シャローテックのほうがもちろん大きい。だが以前なら「投資回収に時間がかかる」「リスクが大きい」といった理由で、投資家や企業はディープテックを敬遠しがちだった。この分野に今、お金が激しく流れ込んでいるという変化は、やはり注目に値する。この変化が起こった背景には、大きく分けて3つの要因がある。