銅相場は、米中貿易摩擦への懸念が和らいだ4月中旬に1トン当たり6600ドルを上回り、昨年7月以来の高値まで上昇した。

 ところが、米中摩擦が激化し、中国景気の減速懸念が強まるとともに、6月上旬には5700ドル台まで急落した。その後も、銅相場は軟調に推移し、9月3日には5518ドルと2017年5月以来の安値を付けた。

 米国による対中制裁関税の引き上げ延期発表を受けて6000ドル近くまで反発する場面もあったが、9月後半は根深い米中摩擦への懸念、期待ほどハト派的でない米金融当局の姿勢、米大統領弾劾の動きなど弱材料が相次いだ。

 10月に入っても、ISM(米サプライ・マネジメント協会)製造業景況指数の悪化や、EU(欧州連合)による欧州エアバスへの不当な補助金の対抗措置として米国がEU産品に報復関税を課すと発表したことが弱材料となり、1日に5600ドル割れまで売られた。

 しかし、7~8日に米中の次官級貿易協議、10~11日に閣僚級協議が開催される運びとなる中で、米中摩擦の激化が回避されるとの期待が高まった。10日にはトランプ米大統領が、翌日に中国の劉鶴副首相と会談するとツイッターに投稿したことが好感され、銅相場はやや上げ幅が大きくなった。

 11日に米中は貿易協議で「第1段階の合意」に達し、米国は対中追加関税第1~3弾の引き上げを延期した。

 もっとも、中国による米農産物購入や通貨安誘導抑止などでは合意したものの、中国国有企業への補助金や米企業に対する技術移転の強要の是正などは先送りした。対立が再び激化する可能性もあり、この部分合意への評価は高くない。

 そうした中、欧州では景気減速の動きが広がり、米国でも減速の兆しが見える。7~9月期の中国のGDP(国内総生産)は前年同期比6.0%増と、1992年の四半期統計開始以来最低の伸びにとどまった。世界景気の減速局面は当面続くとみられ、銅相場は上値の重い展開となろう。

 銅は、株式などと同様にリスク資産の一角とされるが、米国の株価が年初来高値に迫っているのに対して、銅相場は年初来安値に近い。銅の世界需要の5割を占める中国の景気減速の影響を受けやすいことや、自動車、エレクトロニクス製品などの最終需要の先行きが不透明なことが影響している。

 足元では、中国の銅地金の見掛け消費(=国内生産+輸入-輸出)が前年比増加に転じるなど、景気回復の予兆とみえる動きもあるが、米中摩擦などを警戒した在庫積み増しなどの動きが出た可能性もある。銅相場や景気の先行きは慎重にみた方がよさそうだ。

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)