会議の後、自席に戻った森山のところに三木がにやにやした笑いを浮かべながら、近づいてきた。

「森山。電脳のファイル、出してくれるか」

 森山は、デスクの上に置いてある電脳雑伎集団と背表紙に書かれた分厚いファイルを顎で示した。

「どうぞ。勝手に持っていけばいいでしょう」

「なんだよ、根に持ってるのか」

 三木はいい、仏頂面をしている森山の肩を気安くぽんぽん叩く。

「止めてもらえませんか」

 その腕を振り払った森山は、苛立ちの眼差しを先輩社員に向けた。「根に持つとか、そんなつまらないことは考えてませんよ。そんなことより、三木さんにできるんですか、この案件」

「どういうことだよ」

 三木はさきほど会議室で見せた誠実な印象を一変させ、目に底意地の悪い光を浮かべた。「お前ができないから、オレにお鉢が回ってきたんだろ」

「そうですかね」

 森山は、短い笑いを洩らした。「次長が気に入らないからオレを外した。それ以外の何物でもないと思いますけどね」

「お前、こういう案件、いままでに関わったことないだろう」

「だったら三木さんは、どうなんです」

 森山は反問する。「企業買収、手掛けたことあるんですか」

 思わず返事に窮した三木を、森山は見据えた。「少なくともウチに来てからの三年は、ないですよね」

「オレは銀行の情報開発部にいたんだ」

 三木は十歳も年下の同僚に向かってライバル心を剥き出しにしていった。「企業の売買情報は常に扱ってきたし、成功させた実例もある」

「成功させた?」

 森山はきいた。「銀行の情報開発部って、企業売買の実務までするんですか」

 問うと、三木は少しばつの悪そうな顔をしたが、すぐにその感情を仮面の下に押し込んだ。

「実務は営業担当の仕事さ。だが、会社を売り買いすることが果たしてどんなものかはわかってる。お前以上にな」

「自信満々ですね。そんなふうに、うまく事が進めばいいですけど」

「なんだよ、その言い方は」

 皮肉を込めた森山を、三木は睨み付けた。森山は机上の資料を手早くまとめて、三木の前にどんと置く。

「電脳雑伎集団の書類はこれで全部です。どうぞ」

 憎々しげな顔で森山を見た三木は、

「なにかわからないことがあれば都度、きくから」

 そう言い残すと、資料を抱えて背を向けた。

 その後ろ姿に、森山は思わず舌打ちした。