長谷川は基礎となる町を造り、その中に国民が力を合わせて新しい都市を造り上げていけと言っているのだ。

「そう言われれば、どうにでもなりそうな町ね。公園もないし、建物も味気ないほどシンプルで少ない。あるのは空間と可能性だけ。時間をかけてじっくりその時代の都市を造ればいいのかもしれない」

 優美子が低い声で言った。

「この都市模型は一つの案です。今後、さらに研究開発を続けて問題点を洗い出します。首都移転が正式に発表されれば、国民の意向が優先されるでしょう。さらに移転場所が決まれば、その場所にあった変更も必要になります。ここにある都市模型はあくまで第1段階のものです。理想の首都を造っていくのはそこに住む人たち、皆さんなのです」

 長谷川はこの都市模型は、一つの案であることを強調した。首都という言葉は極力避けている。

 たしかに、まだ第一歩を踏み出したところだ。これから考え、修正していけばいい。

「世界は加速度的に変わっていきます。今後ますます世界の中の日本という考えが必要となってきます。日本が小さな島国というのは、すでに100年単位の昔の話です。近い将来、首都の概念も大きく変わります。この新首都は日本の各地と最新の情報インフラで密接に結びついています。そして将来は、世界とも強く結ばれることを願っています。日本がそのハブ都市となりますように」

 長谷川たちは、2時間ほど新首都構想について説明して帰っていった。

 ドアが閉まるとき早苗が森嶋に視線を向けているのに気づいた。

 森嶋を除いて、全員がまだ興奮が覚めきらない様子だった。

「あの程度の都市であれば、1兆円もあれば造ることができる」

「簡単に言ってくれるじゃない。仮に1兆円としても、おいそれと出せるお金じゃないわ。必ずブーイングの大嵐よ」