自宅でコーヒーを淹れ始めた人が最初にこだわるのは、ドリッパーかもしれない。安価でいろいろと試せるし、セラミック、金属、プラスチックと素材の種類も多い。しかし、多くの人はドリッパーを見た目やデザインだけで選んでいないだろうか。また味が変わるといっても、なぜ変わるのかを説明できる人は少ないかもしれない。

しかし、バリスタが素材の違うドリッパーで淹れ分けると、ほとんどの人がすぐに味の違いを理解する。同じ淹れ方でも、ドリッパー1つで驚くほど味が変わるのだ。なぜドリッパーで味が変わるのか?好みに合わせて、ドリッパーをどう使い分ければいいのか?

テレビで話題沸騰!日本人唯一のワールド・バリスタ・チャンピオンである井崎英典氏の著書『ワールド・バリスタ・チャンピオンが教える 世界一美味しいコーヒーの淹れ方』から、その内容の一部を紹介する(撮影:京嶋良太)。

え、こんなに違うの?<br />コーヒーの味はドリッパーで劇的に変わる

「流速」が濃度感を変える

今回は、いかにドリッパーがコーヒーの味わいに影響を及ぼすかについて考えてみたいと思います。

ドリッパーの形状、穴数、リブの差は、お湯がフィルターベッドと呼ばれる粉の層を通過するスピード、いわゆる流速(抽出時間)に影響を及ぼします。

流速が速ければお湯と粉の接触時間は短くなりますし、流速が遅ければ逆にお湯と粉の接触時間は長くなります。

したがって、同じレシピを使用して異なるドリッパーで抽出した場合を比較すると、流速に大きな違いが生まれ、その結果コーヒーはまったく異なる味わいになります。

流速が速くなると、コーヒーの味わいはサッパリと仕上がり、流速が遅くなると、コーヒーの味わいに重さが出ます。流速は抽出液の濃度感に影響すると考えてください。

すなわち、まとめると次のようになります。

【濃度感が高めのコーヒー】流速の「遅い」ドリッパーを選ぶ
【濃度感が低めのコーヒー】流速の「速い」ドリッパーを選ぶ

流速が速い順番に、代表的なドリッパーを並べると、図12のようになります。

え、こんなに違うの?<br />コーヒーの味はドリッパーで劇的に変わる

HARIOの「V60」は底面にある抽出口が大きく、リブも長いため、お湯の抜けが良いドリッパーです。お湯の抜けが良い分、淹れ手によって湯量をコントロールすることで濃度感も調整しやすいドリッパーと考えられています。サッパリした濃度感を求めたい人に向いていると思います。

「コーノ式」も同じく底面にある抽出口が大きいことが特徴ですが、リブがV60と比べて短く、お湯の抜けは比較的遅くなりますので、V60よりも少し濃度感が欲しい、と言う場合にうってつけのドリッパーと言えます。

「ウェーブ式」の“ウェーブ”の由来は正確に説明するとフィルターを指しています。穴は3つ穴ですが、配置がカリタ・3つ穴式とは異なります。

3つ穴式は穴が直列に配置されているのに対し、ウェーブ式は円を描くように配置されており、底面はフラットでお湯と粉がしっかり接触するように作られています。

しかしウェーブ式のフィルターのおかげで、ドリッパー自体とフィルターの接触面が少ないので、お湯の抜けも比較的良いドリッパーです。

「カリタ・3つ穴式」は前述の通りドリッパーの底面に穴が3つ直列に配置されているドリッパーです。お湯と粉がしっかりと触れ、流速が比較的遅いので濃度感のある味わいが好みの方にはうってつけのドリッパーと言えます。

「メリタ式」は、世界初のペーパードリッパーを開発した会社として有名なメリタ社が開発したドリッパーです。メリタ式の特徴は、底面の1つ穴です。当然1つ穴ですので、お湯と粉が終盤までしっかりと触れ合った状態で抽出されますので、濃度感のあるコーヒーを楽しむことができます。

このように同じドリッパーといえど、その形状、穴の数、そして使用されるフィルターの形によって流速が変わり、その結果濃度感や再現される味わいが異なります。図12のドリッパーによる流速の違いを目安にして、自分好みの濃度感(味わい)に近いドリッパーを選び、味作りをしていきましょう。