株式レポート
7月27日 18時0分
バックナンバー 著者・コラム紹介
マネックス証券

【ロンドン・オリンピック開幕記念レポート】金と銀 - 広木隆「ストラテジーレポート」

いよいよロンドン・オリンピックの開幕である。これから2週間にわたって繰り広げられるアスリートたちの熱い闘いが楽しみだ。

ちょうど前回のロンドン大会(第4回オリンピック, 1908年)の陸上競技では、アメリカとイギリスとの対立が絶え間なく起こり、両国民の感情のもつれは収拾できないほどに悪化していた。その時、ある教会のミサで語られたメッセージを当時のIOC会長だったクーベルタンがとりあげ、次のように述べたという。「オリンピックは、勝つことではなく、参加することに意義がある。」

筆者のような凡人からすれば、まさにこの言葉の通り、オリンピックに出場できるだけでもすごいことだ、と思うけれど、実際に極めて高いレベルで争っているトップ・アスリートにとっては、そこは勝負の世界である、成績、記録、順位には人並みならぬこだわりがあるに違いない。端的に言ってしまえば、やはりメダルの色が大切となるだろう。

金と銀。日本語の音としては、「きん」と「ぎん」、濁音があるかないかだけの差だが、選手にとっては金と銀の差は「たかが濁音の差」ではすまされない、とてつもない大きな開きがあるのだろうと想像する。日本語の音としては、「きん」と「ぎん」、濁音があるかないかだけの差なので、その後に「こうかぶ」とつけても、やはり違いは濁音の有無だけである。つまり金鉱株も銀行株も、声に出して読めば濁音ひとつの差であるが、その株価パフォーマンスの開きは、とてつもなく大きい。グラフ1は世界最大の金鉱会社、バリック・ゴールドの株価とバンク・オブ・アメリカの株価推移を比べたものだ。期間はリーマンショック発生前の2008年9月12日を100として、金価格が最高値をつけた去年の9月まで。この間にバリック・ゴールドは配当も含めたトータル・リターンが90%を超えるのに対して、同期間のバンカメのパフォーマンスはマイナス78%。そのパフォーマンス格差は実に170%近くある。



リーマンショック以降、世界の景色は激変した。一番変わったのは、金融業を取り巻く環境だろう。リーマンショック前まで、まさに「我が世の春」を謳歌していた感のある金融業は、リーマンショックでいったんその繁栄に終止符を打ったと言っていい。有り体に言えば、金融業はリーマンショックで死んだのである。

銀行の商品は金である。ゴールドの金(きん)ではなく、マネーのお金(カネ)である。紛らわしいので、以後はカネと書く。銀行はカネを仕入れて(調達して)、カネを売る(貸す)。あるいはカネに投資する。近年、ますます国債と紙幣の差がなくなりつつあるので、そう表現してもよいだろう。銀行は、カネがカネを生むレバレッジ・マシン。それがぶっ壊れて、逆回転している ‐それがリーマン後の4年間だ。

カネを商う銀行の業績も株価も低迷が続いたのと同時に、そのカネ自体も存在価値が問われ始めた。それは無理もないことだろう。商人(あきんど)が精彩を欠けば、商いがしぼみ、商品自体も輝きが薄れる。商品は商いが活況だからこそ輝く。商品の回転が落ちたら、店の棚でほこりをかぶってさび付いてしまうのだ。カネそのものの供給は増えている。中央銀行がお札を刷っているからだ。しかし、それが商いに結びついていないのである。銀行が中央銀行の当座預金や預金ファシリティなどにブタ積みしていたり、国債に投資したりしているのは、ざっくり言って商店が在庫を抱えているのと同じである。

リーマンショックで金融業が死んで、金融危機が起こった。カネがカネを自己増殖させるマシンが壊れて、カネ自体の魅力が薄れた。当然の帰結のように、通貨の信頼が揺らいだ。「ドルの信認」という問題である。

ドルの信認が不安視されるなか、代わってその地位 . 信任と言ってもいい . を高めてきたのが金(きん:ゴールド)である。リーマンショック直後は売られる場面もあったものの、すぐに買いが集まりその後はほぼ一本調子の上昇となった。昨年の9月には1トロイオンス1,900ドル台に乗せ史上最高値をつけた。しかし、その後は調整局面にある。下降トレンドが続いてきたが、1,500ドル台は鉄板でこの大台は割り込まず、直近ではじりじりと底値を切り上げている(グラフ2)。週足で見ると、100週移動平均にサポートされた下値の堅さがよりはっきりと分かる(グラフ3)。昨年9月から続いてきた下降トレンドも終焉し、横ばいに移行しつつあるようだ。





これがまた上昇トレンドに戻るかどうかは分からない。QE3期待が高まれば、また金価格の上昇が始まると読む向きもあるが、それだけでは不十分だと筆者は思う。QE3が発動されて、ドル安になれば、金は上昇基調に転じるだろう。金相場の今後はFEDの政策如何ではない。最終的にドルがどうなるかの一点にかかっていると思う。

金価格を動かす要因は様々である。金は言わずと知れた代表的なコモディティ(商品)であり、すべてのコモディティの価格は需給で決まる、と言ってしまえばそれまでのこと、身も蓋もない話である。需給と一口に言っても、工業用実需から個人の保有目的の投資、投機筋の売買、ETFを通じた年金基金など機関投資家によるものから中央銀行の動向まで、さらにインド、中国、アジアなど地域別の事情も考慮して細かく分析しようと思えばかなりのボリュームになる。但し、「中国の金の輸入が増えている」、「投機筋のロング・ポジションが膨れ上がっている」、云々と言っても、その背景が分からなければ、それは単なるファクト(事実)を述べているに過ぎない。結局は「なぜ金に対する需要があるのか」という点に尽きる。インフレヘッジ、金利との相対感、安全資産としてのニーズ、これもまた様々な言葉で要因を並べることができるが、一言で言って一番大きな金投資のインセンティブは「ドルの代替」ということであろう。

リーマンショック以降の不透明感が強い世界経済のなかで、ドル凋落と言われ続けた「基軸通貨への不信感」、それが金価格上昇の背景だった。で、あるとするならば、昨年9月に高値を打ってそれ以降調整してきた金相場の裏返しは、ドルの復権なのか?答えはYesだ。それはグラフ4を見れば明らかだろう。昨年の夏以降、米国債利回りが急低下するのと逆相関にドル・インデックスは上昇している。



昨年の夏、欧州で債務危機が再燃する一方、米国でも連邦債務上限の引き上げ問題が暗礁に乗り上げる懸念が高まった。そうしたことから米国債が格付け機関から格下げされトリプルAを失うという事態となった。但し、それは米国債への信任を失わせるものにはならなかった。皮肉なことに、格下げを受けた直後から米国債へのニーズが以前にもまして一層高まる。欧州不安が世の中の不確実性を高めれば高めるほど、世界のマネーは米国債へ逃避していった。

「米国債の買い」は、イコール、「ドル買い」では必ずしもない。むしろ為替レートは短期的には金利差で動くから、米国債利回りの低下は金利差縮小の点からドル安につながることが多い。「QE3が発動されて、ドル安になれば、金は上昇基調に転じるだろう」と前述したのは、この一般論のケースが念頭にある。

ところが昨年夏以降の米国債の利回り低下とドル高の共存が示すものは、結局、行き場のないマネーは米国に還流するしかないという事実である。さきほど、「銀行はカネを仕入れてカネに投資する」と書いた後に、何の説明もなく「近年、ますます国債と紙幣の差がなくなりつつあるので、そう表現してもよいだろう」と述べた。その説明は日経新聞のコラム「大機小機」からの引用をもって代える。

「ケインズは貨幣改革論で、財政赤字を賄うために政府が発行した国債や紙幣と税金の領収書は同じだと喝破した。政府が国債発行で財政赤字を賄った場合は、返済のために元利金の合計に見合う税収を得る必要がある。紙幣の発行で赤字を賄った場合は、税収でその紙幣を回収する必要がある。回収しなければ紙幣の増発に見合う分だけ将来のインフレ要因になり、物価上昇が紙幣の価値を引き下げることで税金を払うことになる。だから紙幣や国債が国内で保有されている限り、国民全体にとって、それは税金の領収書と同じ価値でしかない。」(「国債と集団幻想」3月22日 日本経済新聞)

いまや主要国の国債は「税金の領収書」と同じという意味で、それぞれの国の紙幣と同じである。米国債を買うということはドルを買うということと同義である。少なくとも昨年の夏以降、続いてきた現象はそうであったと言えるだろう。

無論、ドルの復権とは言ったものの、所詮は「消去法的選択」でしかない。ユーロは買えない。円も買えない。新興国の通貨も、資源国の通貨も、どこにも持って行き場がなくなって結局ドルに行く。通貨というのはひとびとが、それを通貨として信用するから成り立つ自己循環論法の産物である。しかし、そうは言えども、その自己循環論法の外へは出て行かない。消去法にせよ、なんにせよ、ドルは基軸通貨として存在し続けていて、その地位が揺らいでいない。世界経済の状況は、世間が騒ぎ立てるほど深刻ではないのかもしれない。少なくともリーマンショック直後の状況とは全然違うことだけは確かだろう。

前掲の金鉱株と銀行株のパフォーマンス・チャートは金価格がピークを打った昨年9月までのものだ。それ以降を見ておこう。状況は逆転している。バリック・ゴールドのこの間のパフォーマンスはマイナス27.7%であるのに対してバンカメは29.0%のリターンである。S&P500業種別株価指数の年初来上昇率は金融が位となっている。ドルの復権とともにカネを商う銀行のパフォーマンスも復調している。



ロンドン・オリンピックが終わると、ほどなくしてリーマンショックから丸4年。リーマンショックで金融業は死んだと述べた。俯瞰的に眺めれば、世界はいまだにディレバレッジの途上にあるのだろう。ドット・フランク法で手械足枷をはめられた米国の銀行が元の姿に戻ることは見通せない。それでも、小さなサイクルでのゆり戻しはいくらでもある。もうすでにそのフェーズにあるかもしれない。世の中が欧州債務危機と騒いでいる陰で、カネは自己増殖機能を着々と回復させようと企んでいるように思われる。

一敗地に塗(まみ)れたかに見えた銀行とその商品のカネ(マネー)が復権しつつあるなら、金はもう上がらないのだろうか。そうは言ってない。今後も上昇する余地はあるだろうし、1トロイオンス2,000ドルの大台を更新する日もいつかはくるだろう。但しそれは世界経済が再び正常な成長軌道に戻り、緩やかなインフレのもとで商品市況全般の上昇があれば、自然に到達することが可能だという意味である。ドル不信任を背景に高騰した相場とは明らかに違う軌道を辿るだろう。

金相場の帰趨に関係なく、オリンピック・ゲームでの金メダルの価値は変わらない。チャンピオンとしての証である。もっと言えば、メダルに手が届かなかった選手の偉大さもまた同じである。冒頭に引いたクーベルタンの言葉には続きがある。「オリンピックは、勝つことではなく、参加することに意義がある。人生において重要なことは、成功することではなく、努力することである。根本的なことは、征服したかどうかにあるのではなく、よく戦ったかどうかにあるのだ。」

すべてのオリンピック出場選手にエールを送りたい。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

■ご留意いただきたい事項
マネックス証券(以下当社)は、本レポートの内容につきその正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。当社が有価証券の価格の上昇又は下落について断定的判断を提供することはありません。
本レポートに掲載される内容は、コメント執筆時における筆者の見解・予測であり、当社の意見や予測をあらわすものではありません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございます。
当画面でご案内している内容は、当社でお取扱している商品・サービス等に関連する場合がありますが、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。
当社は本レポートの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。
本レポートの内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布することはできません。当社でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動・金利の変動・為替の変動等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。また、発行者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
なお、各商品毎の手数料等およびリスクなどの重要事項については、マネックス証券のウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」(※)をよくお読みいただき、銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身のご判断で行ってください。
((※)https://info.monex.co.jp/policy/risk/index.html)

■利益相反に関する開示事項
当社は、契約に基づき、オリジナルレポートの提供を継続的に行うことに対する対価を契約先金融機関より包括的に得ておりますが、本レポートに対して個別に対価を得ているものではありません。レポート対象企業の選定は当社が独自の判断に基づき行っているものであり、契約先金融機関を含む第三者からの指定は一切受けておりません。レポート執筆者、並びに当社と本レポートの対象会社との間には、利益相反の関係はありません。

(マネックス証券)


マネックス証券
株式売買手数料(指値) 口座開設
10万円 30万円 50万円
100円 250円 450円
【マネックス証券のメリット】
日本株投資に役立つ「決算&業績予想」、信用取引ではリスク管理に役立つ信用取引自動決済発注サービス「みまもるくん」が便利。米国株は最低手数料5ドル(税抜)からお手軽に投資が可能で、米国ETFを通じて世界中に分散投資できる。投資先の調査、リスク管理、リスク分散など、じっくり腰をすえた大人の投資ができる証券会社と言えるだろう。一方、短期・中期のトレードに役立つツールもそろっている。逆指値ほか多彩な注文方法が利用できる上に、板発注が可能な高機能無料ツール「新マネックストレーダー」が進化中だ。日本株、米国株、先物取引についてロボットの投資判断を日々配信する「マネックスシグナル」も提供しており、スイングトレードに役立つ。
【関連記事】
◆AKB48の4人が株式投資とNISAにチャレンジ!「株」&「投資信託」で資産倍増を目指せ!~第1回 証券会社を選ぼう~
◆マネックス証券おすすめのポイントはココだ!~日本株手数料の低さ、ユニークな投資ツールが充実しているネット証券大手
マネックス証券の口座開設はこちら!

 

株主優待名人の桐谷さんお墨付きのネット証券!最新情報はコチラ!
ネット証券口座人気ランキングはコチラ!
NISA口座を徹底比較!はコチラ
株主優待おすすめ情報はコチラ!
優待名人・桐谷さんの株主優待情報はコチラ!

 

Special topics pr

ZAiオンラインPickUP
[クレジットカード・オブ・ザ・イヤー2017]2人の専門家が最優秀クレジットカードを決定! 2017年版、クレジットカードのおすすめはコレ! おすすめ!ネット証券を徹底比較!おすすめネット証券のポイント付き その 【株主優待】最新の株主優待情報更新中! アメリカン・エキスプレス・ゴールド・カードは、 本当は“ゴールド”ではなく“プラチナ”だった!? 日本初のゴールドカードの最高水準の付帯特典とは?
ランキング
1カ月
1週間
24時間
じぶん銀行住宅ローン 「アメリカン・エキスプレス・ゴールド・カード」付帯サービスはプラチナカード顔負け!最強ゴールドカード 実力を徹底検証  アメリカン・エキスプレス・スカイ・トラベラー・カード
ダイヤモンド・ザイ最新号のご案内
ダイヤモンド・ザイ最新号好評発売中!


 

12月号10月21日発売
定価730円(税込)
◆購入はコチラ!

Amazonで「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!楽天で「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!


【株で資産倍増計画![2018年版]】
1億円に早く近づく厳選56銘柄を公開
億超え投資家資産倍増の極意
・今後1年の日経平均の高値&安値を大予測
プロが提言! 2018年に日本株を買うべき理由! 
・変化の追い風を先読み! 新デフレ&新興国株
・好業績&割安! 上方修正期待株&成長割安株
・第4次産業革命! 独自技術を持つ部品株
新iPhone上がる株 25
利回りが大幅アップ!「長期優遇あり」の優待株
・今買うべき新興国株投資信託ベスト25
ネット証券のサービスを徹底比較! 
・怖いのは死亡・入院だけじゃない!
「働けない」を 助ける保険! 
iDeCo個人型確定拠出年金老後貧乏脱出!

「ダイヤモンド・ザイ」の定期購読をされる方はコチラ!

>>「最新号蔵出し記事」はこちら!

>>【お詫びと訂正】ダイヤモンド・ザイはコチラ

Apple Pay対応のクレジットカードで選ぶ! Apple Payに登録して得する高還元率カードはコレ! 堀江貴文や橘玲など人気の著者のメルマガ配信開始! 新築マンションランキング