テレビ放送が終わって、国交省の電話は鳴り通しだった。

 90パーセント以上がテレビ放送についての問い合わせだった。さらにその大半が、どこに問い合わせたらいいのか分からず電話してきたものだ。しかし国交省の職員の大部分が地震については素人だ。まともな受け答えなど出来はしない。

 昼休みに出ていた職員もすぐに呼び戻され対応に追われた。

 首都移転チームにも緊張があふれていた。今回のようにあからさまに東京の危機が語られたのは初めてだった。

「これは大変なことが起こるぞ。あの京コンピュータの奴ら、とんでもないことをしてくれた」

「しかし5年以内に92パーセントとは、よく言ってくれたね。あの高脇とかいう大学の先生、目が血走ってたぞ。間違ってたら、どうしてくれる」

「いや、十分な準備期間をくれたんだ。それまでに、日本が生き残れるだけの準備をすればいい」

「そうは言っておられないわよ」

 テレビを見ていた優美子が声を上げた。

 テレビでは、緊急放送のテロップが流れる中、東京駅周辺と、新宿、渋谷を映し出していた。人の流れが大幅に増えている。特に銀行前は、ほとんど人で埋まっている。

〈銀行、郵便局、コンビニやデパートのATMに向かう人たちです。証券会社にも人が詰めかけています。一部の電話回線がつながりにくくなっています。さらに世界各地で、一斉に円売りが始まっています。株価もストップ安が出た模様です〉

 アナウンサーが深刻な表情で差し出される原稿を読み上げている。

「さっきの放送を見ていた人たちだぜ。東京が危ないと分かったので、預金を引き出しに行くんだぜ」

「俺だって行きたいよ。まず起こるのは経済危機だろ。銀行が一番ヤバイ」

「パニックが起こり始めてる。いや、もう起こってる」

 誰かの声が聞こえた。

 火がついて燃え始めていたところにガソリンが投げ込まれ、一気に炎上していくという感じだった。

「これが地方にまで広がらなきゃいいんだが」

 呟きのような声が聞こえてくる。

(つづく)

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