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廉宗淳 韓国はなぜ電子政府世界一なのか

「民業圧迫」批判を振り切り、「教育のICT化」を強力に推進する韓国政府のリーダーシップ――学校教育におけるICTの正しいあり方とは(前編)

廉 宗淳 [イーコーポレーションドットジェーピー株式会社代表取締役社長]
【第6回】 2012年8月2日
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授業のICT化を進める一方で、
教員がICTを使いこなすためのスキルや時間を政府が支援

 また、現在は“フューチャースクール”への取り組みとして、授業のICT化も進めています。約3年前から、延べ約130校の小学校を「デジタル授業研究校」に指定し、5年生と6年生を対象に、「デジタル教科書」を使った授業を行っています。2015年までには、小学校から高校まですべての公立学校にデジタル教科書を配付する計画です。

 韓国政府が配るというデジタル教科書のフォーマットはPDFファイルだそうです。従来の紙の教科書とは違って、動画やインターネット上の百科事典などと連携させることができるので、学習効果が高まるのではないかと期待されています。

 しかし一方で、目が悪くなるのではないか、集中力が下がるのではないかといったデジタル化による弊害も懸念されています。そのため、数年後の普及に先駆け、現在、専門家による調査、研究が進められています。現時点では、残念ながら、「デジタル教科書を導入することで、生徒の成績が向上した」といった相関関係を示すデータは得られていませんが、一部で、「これまで授業に興味を示さなかった生徒が興味を示すようになった」といった報告もされているようです。

 さて、学校のICT化に向けて韓国政府は、1996年頃から、教員に対する手厚い支援も行ってきました。いくらすべての公立学校でICT化を推進しようとしても、教員が、パソコンやインターネットを使いこなせないことには話しになりません。そこで、全教員を対象に毎年3割ずつ、ICT研修を実施しているのです。教員は研修により、ワードやエクセルなどのオフィスソフトの使い方はもちろん、インターネットの検索に関するノウハウやデジタル教材の作り方などを習得します。

 また、韓国政府は、教育科学技術部の下に、教育学術振興委員会(KERIS)を設置し、2002年に、KERISに「校務情報化システム(NEIS)」を開発させました。

 これは、1997年に開発した「学校総合情報管理システム」をアップグレードしたもので、NEISには、子どもの成績や健康診断結果などの個人情報が記録され、一元管理されます。保護者も実名確認さえすれば、自由に閲覧することができます。小学校から高校まですべての公立学校に対して、韓国政府がクラウドサービスとして無償で提供しているので、生徒が転校したり進学したりしても、教員は生徒の情報をクラウド経由で入手することができます。

 これにより、教員の事務作業を大幅に削減しているのです。その結果、教員は、授業の準備など本来注力すべき教育活動に、より多くの時間を費やすことができるようになりました。

 また、大学入試の際には、この情報が大学に渡されるので、入学関連の提出書類の電子化も図られています。韓国政府が管理しているので、卒業証明書や成績証明書を役所や空港に設置してある端末から発行するといったことも可能です。就職活動の際に、わざわざ母校に行き、各種証明書の発行手続きを行う必要がないので、便利です。

 成績など非常に重要な個人情報をクラウドで提供することに対して、個人情報保護やセキュリティを危惧する団体も現われました。そのため、当初は1台のサーバーですべての学校を管理していましたが、現在は、広域自治体ごとに16台のサーバーに分散して管理しています。万が一、何かトラブルが発生した場合には、サーバー同士の接続を切断することで、セキュリティを高めているのです。

 後編では日本の学校教育のICT化に関する現状と課題、解決策についてお話しします。

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廉 宗淳
[イーコーポレーションドットジェーピー株式会社代表取締役社長]

1962年生まれ。大韓民国空軍除隊後、国立警察病院、ソウル市役所に 勤務。日本でのプログラマー経験を経て、韓国で株式会社ノーエル情報テック設立。2000年、日本でイーコーポレーションドットジェーピー設立。青森市の 情報政策調整監、佐賀県情報企画監、総務省の電子政府推進委員や政府情報システム改革検討会構成員を務めている。

廉宗淳 韓国はなぜ電子政府世界一なのか

お隣の韓国は、国連の電子政府ランキングでここ数年、1位が指定席。かたや、日本は順位を下げ続け2012年は18位。韓国の電子政府は何がすごいのか、日本が学ぶべきポイントはどこか。90年代前半に日本でITを学び、現在は、行政、医療、教育などの分野でITコンサルティング事業を展開する廉宗淳氏が、日本の公共サービス情報化の課題を指摘する。

「廉宗淳 韓国はなぜ電子政府世界一なのか」

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