飲酒写真はイメージです Photo:PIXTA

 過度な飲酒が健康を損なうことは広く知られているが「ほどほど飲酒」については評価が分かれている。

 ただ、日本人は遺伝的にアルコール代謝能力が低いため、欧米人よりも飲酒による発がんリスクが大きい可能性が指摘されてきた。

 実際、先月報告された東京大学公衆衛生学教室の研究によると、日常的に飲酒を続けた場合、たとえ1日1ドリンク(本研究では日本酒1合、ビール中瓶1本など:推定アルコール含有量23gに相当)であっても10年時点で発がんリスクが上昇するという。

 研究者らは、全国33カ所の独立行政法人労働者健康安全機構労災病院の患者データベースを用い、ほどほどの飲酒者のなかで、新規がん登録症例6万3232例と、命に別条がない一般的な病気にかかって受診をした対照症例6万3232例を比較。対照症例は性別、年齢(平均69歳)、同じ病院で診断された時期をそろえている。

 飲酒以外に発がんに影響する喫煙歴と職業階層を調整して比較した結果、がん全体については、お酒を飲まない人を1とすると1日1ドリンクを飲み続けただけで、10年時点の発症リスクが5%上昇することが判明した。

 がん種別では、食道がんリスクの上昇が最も大きく44%増、次いで喉頭がんが22%増、子宮頸部がんが12%増などで、発症頻度が高い胃がん、大腸がん、前立腺がんへの影響も示された。

 前述した日本酒1合(180mL)、ビール中瓶1本(500mL)、ワイン1杯(180mL)、ウイスキー1杯(60mL)程度の「ちょい飲み」でも、毎日続けると発がんリスクが上昇するというわけだ。また飲む量が増えると、それに比例して直線的にリスクが上昇することもわかっている。

 研究者は「飲酒によるがんリスクについての啓発を強化する必要がある」としている。

 日本の場合、年末年始から春先にかけては飲酒の機会が格段に増える。さすがに最近は「飲め飲め」と強要するケースは減ったと思うが、自戒と共に「その一杯の勧め」が相手の健康を害する可能性くらいは知っておこう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)