8月下旬、私はアメリカに拠点を移す。ハーバード大学ケネディースクールで中国問題と米中関係に関する政策研究に挑むためだ。

 半年間暮らした上海を離れ、私はいま、9年間過ごした北京に戻ってきている。中国で合計約10年間過ごした思い出の地を離れるために――。

 私は中国で何を学び、何を達成し、何に苦しみ、どれだけ成長できたのか。この数週間は、これらを総括するための、“棚卸”の時間だった。

 実際の“棚卸”もほぼ済ませた。3000冊以上ある本をどうするかが一番の課題だったが、幸い北京の友人が倉庫を貸してくれることになった。家具は、ほとんど大家さんのものを使わせてもらっていたから、きれいにして整理しておけばよかった。服はほとんど持ってない。そもそも、買わないし、ブランド品にも興味がない。

 私は「自分自身がブランドになる」ことを少年時代から自覚してきた。市場から必要とされる人材になるために、時間やエネルギーを使うこと。自らの社会的価値が高まれば、それが即ちブランドになると信じている。そう信じて取り組んでいる男が、ブランドに“買われている”ようではダメだ。

 本連載のタイトルにもなった「だったら、お前がやれ!!」という文言を日々口にしていた亡くなった父が、ブランド物に夢中な私の姿を目にしたら、その場で私の頬をぶん殴り、おそらくこう言うだろう。

「お前、何やってるんだ。調子に乗るのもいい加減にしろ。ブランド物を身に着けて、お前は強くなったつもりか。一人前になってから着けろ。足元を見るんだ」

天からの贈り物

 本や資料、名刺やランニンググッズを整理しながら、10年間、この地で駆け巡ってきた様々な光景が、走馬灯のように浮かび上がってくる。

 胡錦濤・温家宝政権と共に歩んだこの10年、中国社会にとっては改革・開放を推進していくプロセスだった。激動の時代は、何者でもなかった私にチャンスをくれた。天からの贈り物だったと思っている。