山室晋也球団社長J1清水エスパルスの新体制発表会見に臨むピーター・クラモフスキー新監督(前列右から2人目)、山室晋也球団社長(同中央)ら Photo:JIJI

日本サッカー界に異色のキャリアを持つトップが誕生した。今月10日付でJリーグの清水エスパルスの代表取締役社長に就任した59歳の山室晋也氏は、みずほ銀行の執行役員からプロ野球の千葉ロッテマリーンズの球団社長に転身し、慢性的な赤字体質を黒字へと転換させた実績を持つ。再び異例の転身を果たし、縁もゆかりもなかったエスパルスで新たなチャレンジをスタートさせるまでの経緯と決意を追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

清水エスパルス新社長は
千葉ロッテの大赤字を改善した元銀行員

 クラブカラーのオレンジが映える真新しい名刺には、日本有数のサッカーどころ、静岡県静岡市をホームタウンとするJリーグの清水エスパルスのロゴとともに、こんな文字が綴られていた。

『山室晋也 代表取締役社長』

 エスパルスを運営する株式会社エスパルス(本社・静岡市清水区三保)の代表取締役社長に今月10日付で就任した、山室晋也氏のキャリアが異彩を放っている。前職をさかのぼっていくとプロ野球の千葉ロッテマリーンズの取締役、球団社長、球団顧問を歴任しているからだ。

 プロ野球界からサッカー界への転身が、斬新に映るだけではない。2013年11月にマリーンズの球団顧問に就任する直前までの肩書きは、みずほ銀行の執行役員だった。さらにつけ加えれば、立教大学を卒業した1982年に第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行して以来、プロスポーツとは無縁の世界を歩んできた。

「銀行時代は法人融資を含めて、企業経営を外から見る機会が多かったですね。この会社はなぜ業績がいいのか、なぜダメなのかを肌で感じることが多く、例えば組織運営や企業戦略といった点で、どのような環境下で何をすれば業績が伸びるのか、ということを学んできました。マリーンズは一転してエンターテインメントの世界なので、人々の心や感性に訴え、注目を集めるにはどうすればいいのか、それらをいかにしてマネタイズしていけばいいのかを学んできました」

 対極に位置する世界と言っていい、金融業界とプロ野球界で学んだことをこう振り返った山室氏は、2014年1月にマリーンズの球団社長に就任。株式会社ロッテが球団経営に参画した1969年以来、数十億円単位で計上されてきた年度末の赤字決算を劇的に改善させた手腕が脚光を浴びた。