〈都知事の岩原ですが、今朝の新聞はご覧になりましたか〉

「まだ構想の段階なんだが、新聞が早まったことをしてくれた」

〈しかし、新首都模型の写真まで載っていましたが〉

「あれは一つのモデルとしてのモノだ。いくつかの構想の一つだ」

〈ではやはり、政府としては首都移転を考えているということですか〉

 総理は言葉に詰まった。都知事としては、東京から首都を移すなど許せないはずだ。

「今日中に記者会見を開き、政府の方針を述べるつもりだ。そのあとでゆっくり話し合おう」

 総理はそのまま電話を切った。どうせ話して納得してくれるものではない。

 その後、閣僚たちにただちに官邸に集まるよう連絡させた。

 それが2時間前だ。

「閣僚たちは集まっているか」

 総理は秘書に聞いた。

「数名の方はまだです。連絡の取れない方もおられまして」

「しかし誰が漏らしたんだ。私でさえ、昨日初めて見たモノだ」

「至急調べさせます」

「村津はまだか。彼が首都移転に関してはもっとも詳しい。閣議では彼に説明してもらう」

 新聞記事を見てすぐに村津と長谷川設計事務所に連絡を取って、直ちに官邸に来るように連絡を取ったのだ。そのとき、新首都模型を持って来るように言ってある。

「もうすぐ到着するかと思います」

「いま一度、問い合わせろ。ここの電話からでいい」

 秘書はデスクの上の受話器を取った。