「発表場所は──総理執務室だ。ここで私が首都移転を決めた経緯について話す。新首都模型を執務室のデスクに置いて話そう。その後、村津参事官に詳細を話してもらう。村津の肩書は国交省参事官でよかったな」

「間違いありません。マスコミはどうしましょう。すでに100人を超えています」

「会見室に大型モニターを設置してくれ。そこで聞いてもらう。話が終わった段階で私が会見室に行って質問を受けよう。ただし、時間が来たり私が合図をしたら会見は直ちに中止だ」

「総理執務室での発表は初めてです」

「何ごとにも最初はある。さあ、しばらく1人にしてほしい。少し考えたいことがある」

 官房長官と秘書たちは出ていった。

 総理はデスクに座り直した。紙と万年筆を出してデスクの上に置いた。おそらく総理就任以来、いや議員になってからこの演説がもっとも重要なものとなるだろう。

 第一声が浮かばない。演説は嫌いではなかった。自分の口元を見つめる数十、数百、ときに数千の顔を見ると浮き立つ心を感じたものだ。今、自分は彼らの心をつかみ陶酔させている。自分の言葉一つで人の意思が変わり、国の未来が変わるのだ。

 気がつくとすでに30分がすぎている。

 ドアを叩く音がする。

「国交省の村津参事官が到着しました」

 お入りください、総理の声と共に村津が入ってきた。

 「これから国民に向けて首都移転の計画を述べようと思う。その折、新首都について説明してほしい」

「私がですか」

「きみがこの国でもっとも詳しいのではないかね。今回のグループのリーダーに任命される前にも数年間の実績がある。長谷川設計事務所には首都模型を持って来るように言ってある」

「あの模型はあくまで一つのモデルとして作ったものです」

「私は気にいっている。きみもあれでいくつもりなんだろう。私はそう感じた。新聞にもあれが掲載されたんだ。どこでどう漏れたのかは知らないが。すでに国民の頭にもあのイメージが植え付けられている」

「新首都模型が届きました。そろそろテレビ放送の用意をしなければなりません。各テレビ局のクルーが来ています」

 ドア越しに秘書の声が聞こえる。