苦しんだあとでは、なおも苦しまなければならない。愛したあとでは、絶えず愛し続けなければならない――、アルフレッド・ド・ミュッセの『八月の夜』より
 

 お、どうした。ダイエットでもやっているのか――?

 最初にこんな軽口をきいたことを、私はひどく後悔していた。彼女の痩せ方はダイエットの成果なんてものじゃなく、憔悴がそのままこけた頬にあらわれていた。

 彼女に会うのは久しぶりだった。

 私は、彼女に最後に会ったのがいつだったかに思いを馳せる。半年前か……、いや、もっとになるかと。

 土曜日の昼近い朝、不意の電話で起こされた。ねえ、元気。こんな時間まで寝てたってことは、どうせこの週末もすることがないんでしょ。お茶でも飲まない? あたしも暇なの――、口調は陽気だった。

 私は、彼女の言葉を額面どおりに受け止め、それからシャワーを浴び、無精髭を剃って、指定された元町のカフェに向かった。それがお昼ちょっと過ぎ。荻窪から横浜までは、軽く二時間はかかる。

 着いたときには、もうアフタヌーンティーの時間になっていた。彼女は先に来ていて、ベルガモットティーを飲んでいる。コーヒー党の私とは逆で、彼女はいつも紅茶だった。

「まだあったのか、この店。とっくにつぶれたかと思ってたぞ」
 「あたしはときどき来ていたわよ。あなたが勝手に来なくなっただけでしょ」
 「あの口うるせえマスターがいないじゃないか、死んだか」
 「お元気よ。相変わらず怠け者で、気が向いたときしかカウンターにいないみたい」

 学生時代に通い詰めた店だった。私と、彼女と、そしてあいつと。

 久しぶりに来た店で久しぶりに彼女と会ったとき、私にはおどけることしかできなかった。何なんだ、お前――、という言葉が思わず口をついて出そうになる。何なんだお前、そのやつれた顔は。

「どうした、ダイエットでもやっているのか」
 「ダイエットなんかしてないわよ。夏バテかしら」

 嘘つけ。