難しい不動産の扱い
プロのアドバイスが重要

 とはいえ、税の問題は相続の結果に付いてくるものだ。まずは、遺産分割の問題を解決しておくことが大切だ。峰尾氏も、「相続する財産を想定して、相続税がかかるかどうか、シミュレーションすることから対策を始めてください」とアドバイスする。

ファイナンシャル・プランナー(CFP(R)) 峰尾茂克氏。THE FPコンサルティング代表取締役。「住まいと暮らし」に関する分野を得意とし、個人相談の傍ら、テレビ・ラジオ出演、企業等におけるセミナーなどで活躍。資格の学校TACで、ファイナンシャル・プランナー養成講座講師も務める。共著に『マイホームで年金をつくる』など。

 相続財産は、不動産や現預金、有価証券はもとより、貴金属や高価な美術品なども対象となる。「相続財産の評価は、原則、時価が基準。購入価格ではありません」。法定相続人の数を確認しておくことも重要だ。例えば、離婚した配偶者は法定相続人ではないが、間にできた子は法定相続人である。結婚外でできた非嫡出子も法定相続人だ。

 次に、「財産分割の方針を決めます。財産を残す人の思いを実現すればいいのですが、トラブルを避ける配慮も必要です」。例えば、親の面倒をしっかりと見てくれる子に多くの財産を分け与えたいと思うのは、自然な感情だ。遺産分割は、必ずしも法定相続分どおりである必要はなく、まずは被相続人の意思が最優先される。しかしながら、法定相続人には相続に対する期待もあるわけで、一定の権利を確保する遺留分の制度も存在する。何より、残された家族が自分の残した財産をめぐって争う事態は避けたいもの。そんな関係者の気持ちとともに、財産を引き継いだ者が納税に困らないよう配慮しつつ、遺産分割の方針を決める。

「難しいのは、不動産の扱いです」と、峰尾氏。「あらかじめ分割しやすい形にしておくほうがよいケースが少なくありません」。例えば、不動産の相続人が他の相続人に代償を支払えるよう保険などで準備する。あるいは、分割しやすいよう不動産を組み替えるといった対応策を検討したいところだ。

「方針が決まれば、遺言を作成して意思が伝わるようにしてください」。自分の考えは家族に伝わっているだろうといった思い込みは禁物だ。家族仲がいいから適当に分けてくれればというのも、やや無責任かもしれない。遺言には三つの方式があるが、要件を満たし、疑問の余地を残さない遺言を準備したい。

 財産の評価、節税・納税対策、不動産の扱い、遺言の形式など、相続ではあらゆる局面で高度な知識と全体の整合性が要求される上に、ミスは許されない。専門家のアドバイスを受けながら対策を進めるのが得策だ。

 相続の失敗の原因の多くは、対策の遅れにある。「例えば成年後見人が付くと、相続対策は非常に複雑になります」と、峰尾氏も注意を促す。「対策が早いほど、贈与を有効活用できるなど選択肢が広がります。まだ大丈夫と思わず、すぐにでも検討を始めてください」。