橘玲の世界投資見聞録 2012年5月22日

[橘玲の世界投資見聞録]
スーチー女史の補欠選挙のさなか、ミャンマーの金融事情を見てきた橘玲の海外投資実践編

アジアで唯一、出発前ビザが必要な国

 ミャンマーは、アジアでは唯一、出発前にビザの手続きが必要な国だ。最近は空港でアライバルビザが取得できるようになったようだが、政治状況次第で規則がすぐに変わるので、旅程が決まったら東京の大使館でビザ申請するのがふつうだ。

 私が最初にミャンマーに行ったのは5年ほど前で、そのときは職業欄にうっかり「出版関係」と書いて大変な目にあった。

 申請書類をチェックしていた係官(日本語の堪能な若い女性)は、眉を潜めると、「ジャーナリストにはビザは出せません」といった。ただの観光だと説明したのだが、「だったらそれを証明してください」といわれ、政治や国際問題とはなんの関係もない仕事をしている証拠として、署名入りの雑誌記事などのコピーを提出させられた。おまけに、「ミャンマーの政治についていっさい書かないことを誓います」という英文の誓約書まで出して、なんとかビザを発行してもらったのだった。

 今回のヤンゴン訪問はたまたまアウン・サン・スーチー女史の出馬する連邦議会補欠選挙と重なることになり、よりきびしい審査を覚悟していた。前回の申請の際、女性係官からは、ウソでいいから適当な職業を書いてくれればよかったのに、という不満がありありと伝わってきたから(面倒なビザ申請は彼らだって困るのだ)、「無職」とか「家事手伝い」とか適当なことを書いてごまかそうと思っていたのだ。

 ところが、北品川のミャンマー大使館に行って驚いた。以前は係官が申請者と1対1で面談していたのに、いまは申請窓口に書類とパスポートを提出し、引換証をもらうだけだ。窓口の係官は書類が揃っていることを確認しただけで、内容には目を通そうともせず、ビザ料金の3000円さえ払ってくれれば誰でもいい、という感じだった。

 それもそのはずで、突然の“ミャンマーブーム”で窓口にはビザ申請のパスポートが山積みになっていた。これを一つひとつチェックするのは不可能だから、確認作業そのものをやめてしまったようなのだ。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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