2人は何とか総理官邸前を出て、赤坂方面に向かった。辺りにはガラス片が散らばり、道路脇にうずくまっている人もいる。時折り余震が起こるたびに悲鳴が上がり、人々が道路に飛び出してくる。

 頭上で激しく金属のぶつかり合う音が聞こえた。見上げた優美子が悲鳴のような声を上げる。森嶋は無意識の内に優美子を押し倒し、身体に覆いかぶさっていた。

 森嶋は頭に鈍い感触を覚えた。同時に左腕に焼けるような熱が走った。

 優美子が何か叫んでいる。意識が吸い込まれるように消えていく。

 かすかに救急車のサイレンが聞こえる。

 森嶋は上体を起こそうとして思わず呻き声を上げた。

「ダメよ、寝てなきゃ」

 優美子が肩を押さえた。

「どうしたんだ」

「赤坂の通りに出たところで看板が落ちてきたの。あなたが私をかばって――。腕を5針も縫ったのよ。幸い骨は折れてなかったけど」

 左腕を見るとカッターシャツの袖が肩からない。肘から手首にかけて包帯が巻いてある。

「落ちてきた看板の角が当たって、コートとスーツを引き裂いたの。もし直撃してたら」

 優美子の顔が歪んだ。

「頭が痛い」

「脳は何ともないみたい。でもかなり大きなコブが出来てる。とにかく、あなたは私を助けてくれた」

 枕元の携帯電話が鳴っている。しかしすぐに鳴りやんだ。

「何度も鳴ってるわよ。私が出てもよかったんだけど、あなたはイヤでしょ」

 森嶋は頼んで携帯電話を取ってもらった。

 ロバートと理沙から数回の着信があった。実家からのものもある。最後の着信は高脇だ。

(つづく)

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