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「よい会社」の優れた基準
GPTWの「働きがいのある会社」ランキング

楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]
【第19回】 2012年10月4日
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 「よい会社」の尺度とかランキングについての話をこの連載で何回かした(記事参照:「有識者の評価による『よい会社』ランキング」の無意味「『よい会社ランキング』のよい尺度」ランキング:「従業員の声」が金メダル獲得 )。評価対象が「よい会社」ということであれば、ランキングの尺度としてもっとも有効なのは、非反応的尺度で「長期利益」、反応的尺度を使った意識調査であれば「従業員の声」だというのが僕の見解だ。

GPTWの「働きがいのある会社」ランキング

 従業員の声に基づくサーベイにもいろいろあるが、その中でも「GPTW(Great Place To Work)インスティテュート」が実施している「働きがいのある会社」ランキングは、僕の知る限りで僕のイメージする「よい『よい会社ランキング』のランキングの最上位」にある秀逸な調査だ(ややこしいが、ようするによい会社のランキングとして最も優れていると僕が思っている、ということ)。

 GPTWインスティテュートは、「働きがい」に関する調査・分析を世界40カ国以上で実施しているアメリカで設立された専門機関。毎年1月「FORTUNE」誌でレポートされる「働きがいのある会社」ランキングは、アメリカでは一流企業の証とされている。日本でも2005年から活動を始めている。『日経ビジネス』で毎年報告されている日本版の「働きがいのある会社」ランキングを見たことがある人も多いだろう。

 話はそれるが、世の中には名前を聞いただけでは何をやっているのか分からない会社が多い。たとえば、後で出てくる「ディスコ」。聞いただけだと「踊っているのかな?」「フリードリンク、フリーフード?」「ハンバーガーインの交差点を左折した左側?」(80年代東京のローカルな話)という感じがする。ところが、実際は精密加工装置メーカーなのでありました(それにしても、ディスコは古いか……。いまなら「クラブ」? で、気になって調べてみたら、ありました!「クラブ株式会社」。でも字で書くとKLab。ソーシャルゲームやスマートフォン・アプリの会社だった)。

 その点、日本でGPTWの運営主体となっている会社は事業内容がわかりやすい社名だ。「株式会社働きがいのある会社研究所」。聞いただけで、「あ、働きがいのある会社のことを研究している会社だな」ということがイヤというほどよくわかる。

 もちろんどんな意識調査にも方法上の限界がある。「働きがいのある会社」ランキングの弱点は、会社の側から申し込まないと調査の対象にならないことだ。だから調査対象のカバレッジの点では偏りがある。しかし、これを別にすれば、GPTWの調査は非常にストレートかつ詳細にわたったもので、さすがに「働きがい」のツボを押さえている(詳しくはGPTWのホームページを参照)。

 特筆すべきは、この連載で前にも話したハーズバーグの2要因理論でいう「動機づけ要因」に調査の軸足が置かれているということだ。GPTWのサーベイは「信頼」(trust)をカギ概念にして設計されている。言い換えれば、「報酬」とか「福利厚生」といった「衛生要因」が中心になっていない。これがいい(世の中にある多くのサーベイが実はこっちに焦点を当てていて、本当の意味での「働きがい」の調査になっていない)。

ランキングの常連をみると

 日本版の「働きがいのある会社」ランキングに名前の出てくる会社をみてみよう(ランキングの詳細についてはホームページで過去の分を含めて報告されているので、そちらを参照。)。大学生を対象とした「就職人気企業ランキング」とは相当に違う顔ぶれになっている。

 最新の2012年のランキングを見ると、1位はグーグル。これは「ま、そうかな……」という話なのだが、上位30社にはワークスアプリケーションズ、Plan・Do・See、サイバーエージェント、ディスコ(踊らないほう)、トレンドマイクロ、日建設計、ブラザー工業、堀場製作所、ガリバーインターナショナル、良品計画、バンダイ、アルバックという日本企業が並んでいる。いずれもこの数年「働きがいのある会社」ランキングの常連だ。これは大企業対象のランキングだが、従業員249名以下の小規模企業の方では、たとえばライフネット生命が常連になっている。

 こうした「働きがいのある会社」ランキングに常連企業をみると、製造業ありサービス業ありでさまざまなのだが、従来の「就職人気企業ランキング」と明らかに違っている点が2つある。ひとつはワークスアプリケーションズ、Plan・Do・See、サイバーエージェント、トレンドマイクロ、ガリバーインターナショナル、ライフネット生命のように、相対的に若い会社が多いということ。もうひとつは、ディスコ(しつこいようだが、踊らないほう)、ブラザー工業、堀場製作所、アルバックのように、伝統ある製造業企業でも、それほど世間一般の知名度が高くない会社が多いということだ。もちろん無名というわけではないが、すくなくとも売上高何兆円という巨大企業ではない、

 従来の「就職人気企業ランキング」がその性格からして単なる「世間一般に知名度の高い会社のランキング」になってしまうという話を前にした(記事参照)。それとくらべて「働きがいのある会社」ランキングは、僕の目から見ても「よい会社」の実質をとくとらえた結果になっていると思う。僕が個人的に「よい会社」ランキングをつくったとしたら、GPTWのランキングと重なる企業がわりと多く入ってくる。

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楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]

1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。2010年5月に発行した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、本格経営書として異例のベストセラーとなり、「ビジネス書大賞2011」の大賞を受賞した。ツイッターアカウントは@kenkusunoki


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