プロ野球にもメジャーにもない
とんでもない奪三振記録

 ひとりの投手の奪三振見たさで観客が足を運び球場が超満員になる――。

 江夏豊や高校時代の江川卓のような魅力を持つ投手が現れた。桐光学園(神奈川)の2年生左腕・松井裕樹である。

 1回戦の今治西(愛媛)戦では22個の三振を奪った。これは春夏を通じ甲子園大会の9イニングでの最多記録だ(延長戦では坂東英二氏(徳島商)の18イニングでの25個、江川卓(作新学院)の15イニングでの23個がある)。レベルが違うため単純に比較はできないが、メジャーリーグでも日本のプロ野球でも9回27アウト中、22アウトを三振で奪った例はない。とんでもない記録である。

 2回戦の常総学院(茨城)戦でも19個、3回戦の浦添商業(沖縄)戦でも12個、準々決勝の光星学院(青森)戦は0-3で敗れたが、それでも15個の三振を奪い合計68個。これは94回を数える長い甲子園大会の歴史でも6戦83個の坂東氏、7戦78個の斎藤佑樹(早稲田実業)に次いで3位。松井はこの記録をたった4戦で作ってしまったのだ。だから、1試合(9イニング)あたりの奪三振数・奪三振率は17.00。坂東氏の12.05、斎藤佑の10.17をはるかに超え、ダントツの1位だ。

 この驚異的な奪三振ショーを見ようと、甲子園には多くの観客が足を運んだ。22個の奪三振記録を作った1回戦の観客は2万1000人だったが、2回戦は4万7000人、3回戦は4万6000人、準々決勝は9時開始の試合にもかかわらず3万9000人が集まった。増えた分の観客は、松井の奪三振を目当てに来たといっていいだろう。奪三振が期待できる投手はそれだけ魅力があるのだ。

 松井がこれほど三振を取れるのは、球速があるうえに打者の目前で鋭く曲がって落ちるスライダーがあるからだ。対戦した打者によれば、バットを振り始めたところでボールが消えるらしい。それほど急激な変化をするのだ。