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ピカチュウと一緒に歩いた被災地の日々
~33万人の子どもたちとポケモンの絆が明日を創る

石島照代 [ジャーナリスト]
【第32回】 2012年8月22日
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田中: 5月5日に実施した「ピカチュウかぶと」のことですね。青森県沿岸部のデイリー東北、岩手日報、河北新報、福島民友、福島民報、あと茨城県に届くように読売新聞に協力していただき、新聞4面を使った企画で、表にピカチュウの顔をしたかぶとの折り紙を、裏にはポケモン646匹のポスターを入れていただきました。合計198万部ほどだったと思います。

 当時はまだ避難所生活の世帯も多く、子どもたちに遊びが足りないと言われていました。お誕生日のようなお祝い事からも縁遠い生活をしているだろうと思ったので、子どもの日のお祝いを贈りたい、というのが企画者の発想です。かぶとを折っていただいてもいいですし、道具がなくとも646匹のポケモンを言い当てるだけで子どもたちは楽しく遊んでくれるのではないかと思いました。避難所に新聞が配達されることは分かっていましたが、実際に子どもの手に届くかは心配で、私たちも当日の朝はネットの情報をずっと見ていました。

石島:ネット上の反応はどうでしたか?

田中:その日は連休中の活動を終え、メンバーと2人で仙台から戻る日だったのですが、朝買った新聞を手に新幹線に乗って、携帯でネット上の書き込みを見ていました。すると「これはなんだ?」というつぶやきがいっぱいあって。それから「どうやらこれは東北地域に配られているらしいから、子どもたちに届けてあげよう」と拡散されている方がいらっしゃったり、FM局にメールが入り「みなさんも避難所へ持っていきましょう」と呼びかけてくださったり、たくさんの方が善意で動いてくださいました。本当にありがたいことだと思いました。実際に作ってかぶられている写真もたくさん拝見しました。

石島:善意が伝播するときに、その行動が「いいこと」だから伝播するのは大前提ですが、それを可能にするのも、ポケモンというコンテンツが子どもをお持ちの親御さん、ひいては社会から信頼されているというのも後押ししたのでしょうね。

田中:ポケモンは子どもたちのためにいいことをしています、と標榜しているわけではないのですが。…ただ、ポケモンの世界に描かれていることで、人を傷つけるようなことは絶対ありません。バトルという要素も、競い合ってお互いの能力を切磋琢磨していこうというものだし、もっといえば、ポケモンの世界には絶対的な存在や悪者はおらず、人とポケモンが共生している。すごく日本的というか、アジア的な世界観がありますね。そういうところも、親御さんが安心して与えられる点だとは思います。

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石島照代
[ジャーナリスト]

1972年生まれ。早稲田大学教育学部教育心理学専修を経て、東京大学大学院教育学研究科修士課程在籍中。1999年からゲーム業界ウォッチャーとしての活動を始める。著書に『ゲーム業界の歩き方』(ダイヤモンド社刊)。「コンテンツの配信元もユーザーも、社会的にサステナブルである方法」を検討するために、ゲーム業界サイドだけでなく、ユーザー育成に関わる、教育と社会的養護(児童福祉)の視点からの取材も行う。Photo by 岡村夏林

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ゲームソフトをゲーム専用機だけで遊ぶ時代は終わった。ゲーム機を飛び出し、“コンテンツ”のひとつとしてゲームソフトがあらゆる端末で活躍する時代の、デジタルエンターテインメントコンテンツビジネスの行方を追う。

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