「まずは、とは。他に案はあるのかね」

 総理の言葉に、全員の目が村津に集中した。

 「以前話したように、首都を固定する必要はあるのでしょうか。この規模の都市ならば、日本の各地に複数出来てもいいのではないですか。日本各地の中核都市として複数造れば、地方の発展の拠点として利用できます」

 殿塚は小さく頷いた。彼がライフワークとしている地方分権にも通じるものだ。森嶋という国交省の官僚が書いた『中央集権の崩壊』と『日本、遷都の歴史』にあったものだ。

 村津はそこまで考えていたのか。殿塚自身は読みながら、合理的で未来の首都像だと思うところもあったが、荒唐無稽の夢物語と思っていた。

「移動首都か。道州制にも最適だ」

 殿塚が呟いた。

「バカなことを言うな。首都の重みと威厳はどうなる。国家の象徴としての首都は一つであるべきだ」

 官房長官が村津を睨むように見て言った。総理は無言のままだ。

「世界のグローバル化は進んでいます。国家の距離は短くなりました。世界中どこにでも24時間以内に行ける。いずれは国境すらも取り除かれる日が来るやもしれません。ヨーロッパもその意思を捨ててはおりません。EUもそのためになんとか続いています。こういう首都があってもいいのではないですか」

「いずれは北海道に日本の首都が設置されることもあるのかね」

 殿塚が真剣な表情で聞いた。

「科学技術の進歩が、様々な弊害を取り除いてくれるでしょう。ICT技術を駆使して全国を結びます。移動手段も航空機、新幹線とリニアモーターカーを利用すれば、さほど不便なものではありません。もはや距離は問題にはならないでしょう」

「しかし、これで国民が納得するでしょうか。それより先に、国会を通るでしょうか。私にはそのほうが心配です」

 官房長官の言葉に総理は殿塚に向き直った。

「我が国にはさほど時間は残されておりません。東京が地震により大きなダメージを受ければ、日本のみならず世界にその影響は広がります。その前に、出来る限りの手を打っておきたい。その最大の方策が首都移転です。私はなんとしてもやり遂げる所存です」

 総理は強い意志を込めて言って、頭を下げた。

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