私は名誉のために何をしたか。
恋のためなら何だってしたのに――、ジャン・ラシーヌの『ベレニス』の一節。

 

 大人の恋の話をするなら、『男と女』というフランス映画がいちばんいいと思う。

 やっぱりね、映画を見るならフランス映画です。このフレーズはわかる人にしかわからないのだけど。

 『男と女』という映画を知らなくても、映画で使われた音楽なら若い人たちもご存じのはず。ダ~バ~ダ~、ダバダバダ、ダバダバダ、ダ~バ~ダ~、ダバダバダ、ダバダバダと言えば……、わからんか、文章じゃ。

 制作は一九六六年というから、私のオムツが取れたかどうかというころの作品だ。

 さらに遡れば、私がいちばん好きな『天井桟敷の人々』という映画は第二次大戦中につくられたわけだし、紫式部の『源氏物語』を男女の愛のかたちを描いた作品と詠めば、日本では千年も前から男女のロマンスが語られていたことになる。

 『雨夜の品定め』なんて巻は、宿直の夜、若い公達たちが仕事中に酒をかっくらって、女房にするならこんな感じがいいあんな感じががいい、いやいや、女性はやっぱりこうでなくちゃ――、と延々“ボーイズトーク”を繰り広げるお話です。

 江戸元禄の時代にはさまざまな“心中もの”が歌舞伎や浄瑠璃で上演され、つまるところ“男と女の恋物語”は不変ということになる。大奥の“江島事件”なんて好きだな、私。

 ということで『男と女』。仏題は『Un homme et une femme』だから、タイトルは直訳そのまま。ストーリーはとてもシンプルです。

 男と女が出会い、惹かれあい、恋に落ち、別れ、でもやっぱり互いに求めあっちゃうという物語……、二行で終わってしまう。編集者との打ちあわせでこんなプランを出したら即ボツですね。