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連載経済小説 東京崩壊
【第68回】 2012年8月27日
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高嶋哲夫 [作家]

ダラスの発表

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【前号までのあらすじ】
総理の発表会見から1週間がすぎた。首都移転反対のデモは激しさを増していた。昼休み、森嶋と優美子は官邸を取り巻くデモを見に行った。マイクを持った若者が絶叫し、デモ隊が官邸に向かって動き始めた。そのとき大きな地震が起こり、路上で火の手が上がった。人々は思い思いの方向に走り始めた。デモ隊の一角が崩れた。女性が倒れ、その上に人が折り重なるように倒れていく。そのとき、頭上で激しく金属のぶつかり合う音が聞こえた。見上げた優美子が悲鳴のような声を上げる。森嶋は無意識のうちに優美子を押し倒し、覆いかぶさった。看板が森嶋を直撃し、森嶋は病院に搬送され腕を縫ったが、幸い大事には至らなかった。
携帯電話を見ると、ロバート、理沙、高脇から着信があった。優美子が病室を出ていってから、森嶋は高脇に電話した。高脇は、こんなのは序の口でこれから地震の本番が来ると言って電話は切れた。
この地震を境に、世論の流れは大きく変わった。首都移転賛成派が著しく増えたのだ。
地震から数日後、森嶋は優美子に懇願され財務省に向かう。部屋に入ると財務大臣と事務次官が待っていた。財務大臣は森嶋にダラスに会わせて欲しいと訴える。森嶋は最善を尽くすことを約束して財務省を後にした。
森嶋はロバートに電話し、財務大臣がダラスに面会したがっていることを話した。10分後、ロバートから電話があり、大臣抜きなら会えると言う。
森嶋、村津、優美子、ロバートの4人は、ホテルのダラスの部屋を訪ねた。ダラスは森嶋たちを彼のスタッフが働く隣室に案内する。村津は彼らに首都移転の詳細を説明する。2時間に及ぶ説明がおわり、4人はホテルを出て分かれた。
その日の夜、殿塚と村津は総理執務室にいた。総理に呼ばれたのだ。移転先の候補を聞かれると、「吉備高原はいかがでしょう」と村津は答える。自然災害が少なく、活断層も発見されていない、台風も直撃しないというのが理由だ。「他に案はあるのかね」という総理の言葉に、首都を固定する必要はあるのでしょうかと答える村津。この規模の都市なら、日本の各地に複数出来てもいいのではないかと予想もしないことを口にする。日本各地に中核都市が複数できれば、地方発展の拠点として利用できる。「移動首都か。道州制にも最適だ」殿塚が呟く。総理は、首都移転は何としてもやり遂げたいと強い意志を込めて言い、頭を下げた。

第4章

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 翌日の首都移転チームは首都移転場所の話題で持ちきりだった。

 昨夜、総理の緊急記者会見があり、新首都の最有力候補地として岡山県吉備高原が発表されたのだ。同時にその詳細が村津参事官によって説明された。

 当然のことながら、賛否の議論が沸き起こった。しかし意外なことに、それは首都移転によって利害が関係するごく一握りの人たちだけだった。大部分の国民は多くの議論もなく受け入れたのだ。

 国民の大部分は現状に疲れ、地震に怯え、新しい出発を求めているのだ。

 首都移転チームも朝からその話で持ちきりだった。

 「本当に新首都は岡山に決まりなのか。東京から遠すぎるとは思わないか。新幹線を使っても、3時間30分だ」

 「日帰りできない距離じゃないわよ。飛行機を使えば1時間半で羽田まで行ける。一昔前を考えれば、ぜんぜん無理な話じゃないわ。それに、東京からの距離にこだわる必要もないんじゃないの」

 「仙台は東日本大震災の影響で除外された。名古屋は東南海地震の恐れで除外。大阪も防災上の問題で除外。福岡、広島は地理的なことで除外。最終的に岐阜と岡山に絞られたって聞いた。そして、総合的に岡山に決定」

 「岡山なんてサルとキジと犬しか住んでないかと思ってたぜ」

 「それは差別だわよ」

 「悪かった。桃太郎もいるし、吉備団子もある。駅前にそろって立ってるの見たぞ。銅像だったけど」

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


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