森嶋の携帯電話が鳴り始めた。

〈新首都の移転場所まで決まってたとは驚いたね。なぜ、教えてくれなかった〉

 ロバートの声が飛び込んでくる。彼は日本の行く末を見届けると言ってアメリカには帰らず、まだ大使館にいるはずだ。彼の言葉によると、ここ1週間が勝負だそうだ。日本がデフォルトするか、なんとか復活するか。たしかに、すべてが慌ただしい。村津参事官は今日も国会に呼ばれて新首都についての説明をしている。

「吉備高原を知ってたか」

〈日本の地方の地名まで知ってるはずないだろ。俺には、いやアメリカには日本の新首都がどこであろうと関係ない。日本政府が迅速で積極的な方針を取って、この危機を乗り越えてくれればいいことだ〉

 たしかにその通りだ。日本にとってアメリカの首都がどこでもいいのと同じように、世界から見れば日本の首都の場所などどうでもいいのだ。日本が従来の経済活動を取り戻し、一定のGDPを保ち、為替レートを安定させ、国連を含めた国際機関の賦課金を十分に払い、ODAを復活させ、世界恐慌につながるような事態にならなければ、新首都が九州にあろうと、北海道であろうと関係ない。

〈ところで、今日の午後、インターナショナル・リンクが日本と日本国債について新しい発表をするそうだ。世界中のヘッジファンドと投資家、銀行が見守ってる〉

「それに中国もね」

〈すでにユニバーサル・ファンドを使って、数兆円の投資をしてる。中国が利益を得るためには日本が破綻しなければならない〉

 ロバートは淡々とした口調で言った。